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日常生活の個と政治:レジデンスアーティスト Anna Witt

June 12th, 2015 Published in インタビュー

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オーストリア政府のアーティスト・イン・レジデンスプログラム[*]で7月まで日本に滞在しているアーティストAnna Witt(アンナ・ウィット)。社会の歪みや日常生活における政治性に着目した彼女の活動や作品を紹介しよう。

あなたのバックグランドを教えてください。

私はドイツで生まれ育ち、そこでアートを学び始めました。2005年からウィーンで活動しています。2008年にモニカ・ボンヴィチーニのもとでパフォーマテンスを含むインスタレーション作品で修士号を取得しました。それ以来、ヨーロッパや世界各地でプロジェクトを展開し、たくさん旅をしてきました。

これまで制作してきた作品や制作方法について教えてください。

パフォーマンスを交えたビデオインスタレーションを中心に発表しています。そこで取り上げているのは、社会的なシステムの中にある文化的な固定観念と個人の形成についてです。私の作品では、フィクション的なパフォーマンスとドキュメンタリー的な演劇性という相反する状況設定を取り入れながら、アイデンティティにまつわる政治性、共同性、市民権に関連したテーマに起因する問題を再現しています。

『Sixty Minutes Smiling』

ここ数年では『Sixty Minutes Smiling』などの作品のように、現代社会の労働形態とその困難さなどを扱った作品を制作しています。この作品はさまざまな感情がもつ市場的価値について扱っています。2画面に流れる映像には、60分以上にわたって最高の笑顔を保ち続けるというタスクを課せられたビジネスマン、ビジネスウーマンが映っています。笑顔を保ち続けるという演技は結果として重労働となり、ビジネスやマーケットがより複雑な世界であることを示しています。そして、それぞれの登場人物の感情が、顔の表情と相反しているのが分かります。

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『Flextime』

『Flextime』は、近年の傾向となっている労働時間の自由化について疑義を投げかけている作品です。ウィーンのビジネス街で、通りがかりの人たちにカメラの前で拳を突き上げるポーズをとってもらいました。そのポーズは、20世紀初頭のウィーンでよりよい労働条件を求めて闘う労働者が運動を起こした際にとっていた典型的なポーズです。参加者には、通常の最低賃金とされている時給に相当する10ユーロの謝礼を払うことを伝えるのですが、ポーズをとり続ける長さについては、参加者自身が決定します。ここで新しく勝ち取られた「時間」に対する自己決定権によって、参加者は要求されたことを成し遂げるためにどれくらいの長さが十分なのかを決定しなければいけない道徳的なジレンマと責任が伴います。結果的には実にさまざまな判断がなされました。中にはほんの数秒だけポーズをとる人もいれば、身体が麻痺するほどにまでポーズをとり続ける人もいました。

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『The Eyewitness』

『The Eyewitness』では、8歳から10際の子供達のグループが部屋で過ごしています。この部屋には世界中から集めた政治的なニュース映像を流すディスプレイを配置しました。子供達は流れている映像の背景や内容に関する情報を与えられることなく、そのイメージに反応してもらいました。子供達はただ目にしているもののみに反応することになります。私が録音した子供達のやりとりは、ほとんど意味のないものになりました。権力構造や冷戦、経済危機などの社会的・政治的トピックスについて得られた子供達の意見や考えは、事実を曖昧にさせるものになりました。

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『Empower me』

今はカメラを操作する枠割をすることが多くなりましたが、これまでは作品『Empower me』のように、自分自身がカメラの前で何らかの役割を演じることが多かったです。この作品では、通りを歩く人にお願いして小さなステージを設置した個展会場までついてきてもらいます。部屋に入ると、彼らは人質として捕らえられた存在であり、政治的な要求のために拘束されているので、何らかの政治的要求を掲げて解放される可能性を探らなければならないと伝えられます。ここで、誘拐犯である私と人質は、どのような要求を掲げるべきかについてお互いに親密に話し合います。要求を紙に書いて、目隠しされた人質の脇に掲げられます。参加した人たちからの要求は、「もっと教育に投資を」といったものから、「100万ユーロとサッカーのスターロナウドの隣に別荘を」といったものまで様々な要求がありました。

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『Push』

『Push』のために、私はロサンゼルスのベニス・ビーチを歩いている人にお願いして、駐車してある車に私自身を押し付けてもらいました。そしてその代わりに私も彼らに同じことをしました。これはロサンゼルスの街で逮捕されるときや、ハリウッドスタジオで制作されるドラマの典型的なイメージです。役割を交代することで、参加者は権力と抑圧というそれぞれの立場を経験することになります。

創作活動の中で最も重要なポイントは何ですか。

日々の生活の中で「政治的である」ということがどのような意味を持つのかに興味があります。私は、ある人とその人を取り巻く世界との間に衝突や対立を引き起こしてみたいのです。そして個々人のレベルで現代社会を形成しているトピックスにしばしば映し出されるようなブラットフォームを作りたいと考えています。私の作品は参加型の作品が多いのですが、それは自分の作品が選民的であったり排他的なものではなく、アクセスしやすいものであるべきだと思っているからです。望ましいのは、自分の作品が生きる力をもたらすためのツールとして機能したり、それぞれの視点から様々な問題について考え直すインスピレーションを与えることです。

日本でのレジデンスプログラムに申請した理由を教えてください。

日本は高度に進歩した現代的な社会を持つ国です。ここでは様々なトピックスやグローバルなトレンドに触れられるようなので、自分がインスピレーションを得るにはとても興味深い国だと思いました。また、一方で自分が持っているヨーロッパを中心に据えた視点から距離をとって、異なる視点で様々な規範や常識を経験できるからです。

次の制作に向けて東京での滞在中に何かインスピレーションを得ましたか?

私は三里塚芝山連合空港反対同盟と、彼らが長い間自分たちの土地のために闘ってきたことにとても興味を持っていて、このことをリサーチしたいと思っています。そこには少なからず私のバックグラウンドとのつながりがあるんです。私は小さな街で育ち、そこでは30年以上にわたって高速道路の建設に集団で反対していました。生まれた頃にはすでに運動が始まっていましたが、このような状況がいかに個人の人格形成に影響し、世代から世代に受け継がれるのかに興味を抱いています。また、それ以外にも私の興味をひくものがたくさんあり、将来的には自分の作品に落とし込みたいと思っています。例えば、高度に情報化された時代において、突然情報が欠如してしまうような作品を構想しています。

今後の活動について聞かせてください。

現在、Walking through wallsという進行中のプロジェクトに関わっています。このプロジェクトはドイツにおいて、何らかの政治的理由で自分たちの国を出て受け入れを待っている亡命希望者に関する認知を、現代から過去の歴史にさかのぼって比較しながら扱っています。

このプロジェクトはコンピューター・ゲームとはかなり異なるスキルが必要です。このタイトルは、困難な中で国境を越えて、何らかの脅威的状況から安全な場所へ逃避することを意味しています。事実、この運動は避難民の不安定な現実生活に取って代わるものであり、国境というのは、克服されるべき唯一の壁ではないのです。

二つの異なった経験を持つ避難民になることがこのプロジェクトの始まりです。ドイツにあるシリア避難民および80年代に鉄のカーテンを通り抜けて西ドイツへ避難した東ドイツの避難民とコラボレーションし、現在と過去の歴史的出来事のアナロジーを探しています。ここでは主人公の人生を決定的に変え、社会の中で何が異物的で何に親近感を感じるかという知覚を変化させるものです。この作品はライプチヒの現代美術ギャラリーで現在展示されていて、2016年1月まで展示されています。

Anna Witt(アンナ・ウィット)Anna_Witt_2

1981年、ドイツ生まれ。ウィーンを拠点に活動しているアーティスト。2008年にモニカ・ボンヴィチーニのもとでパフォーマンスを含むインスタレーション作品で修士号を取得。その後、Manifesa7(2008)、ベルリンビエンナーレ(2010)、リュブリャナの第29回グラフィック・アーツ・ビエンナーレ(2011)、ロンドンのLux/ICA動画ビエンナーレ(2012)、ルール・トリエンナーレ(2013)、オフ・ビエンナーレ・ブダペストおよびウィーン・ビエンナーレ(2015)など数多くの国際的な展覧会に参加。ここ数年はJanco Dada Museum(イスラエル)、Marabouparken Art Gallery(スウェーデン)、Gallery Tanja Wagner(ベルリン)、Stacion – Center for Contemporary Art Prishtina(コソボ)などで個展を開催。彼女の作品は、St.Gallen美術館(スイス)やルートヴィヒ美術館(ケルン、ドイツ)、ベルベデーレ宮殿(ウィーン)などでコレクションされている。2013年に40歳以下を対象としたオーストリアのアーティストに与えられるBC21 Art Awardを受賞したほか、今年The Future of Europe Art Prizeを受賞したばかり。2011年にベルリンのRevolver Publishingから彼女の作品集が出版されている。

 

<上映会のお知らせ>

6月18日に、オーストリア文化フォーラムでAnna WittとBernadette Anzengruberの作品上映会が開催されます。ご興味がある方はぜひお越しください。
日時:2015年6月18日(木)19〜21時
場所:オーストリア文化フォーラム(〒106-0046 東京都港区元麻布1-1-20)
入場:無料(招待状不要)
URL: http://www.austrianculture.jp/about.html

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[*]オーストリア政府による アーティスト・イン・レジデンスプログラムについて(東京都荒川区)

オーストリア政府文化省は、オーストリアの若手アーティストが滞在できるよう、長年にわたり荒川区に小さな邸宅を借り受けている。 本国で審査され推薦を受けた若手アーティストは滞在のための奨学金も助成される。このプログラムの基本的な方針は、有望なアーティストが見聞を広め、異文化の背景を学び、作品を制作する機会を提供すること。日本のアーティストやアート関連の機関・施設と交流を図り、日本のプロジェクトに積極的に関わることを奨励している。これまで非常に多くのアーティストが参加し、コラボレーション・プロジェクトを多数生み出しており、広い意味で日本とオーストリアの文化交流や対話を促進している。荒川区はオーストリアとの長期的な友好関係から在日オーストリア大使館に協力し、来日するアーティストを好意的にサポートしている。

取材協力:オーストリア大使館/オーストリア文化フォーラム