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[コラム]アニメーション映画祭から見えてくる世界のアニメーションスクール事情

August 23rd, 2012 Published in レビュー&コラム  |  1 Comment

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現在のアニメーション文化を考えるにあたって、大学や専門学校といったアニメーションの教育機関の存在を欠かすことができない。それは、将来的にアニメーションの世界を支える未来の人材が育つ場であるというだけではなく、今、最も面白いアニメーションが実際に生み出される場でもあるからだ。学生作品は、数々の制約がつきまとわざるをえない卒業後の制作状況と比べると、才能ある個々人が、充実した設備と作品制作のみに向き合うことのできる時間の確保という贅沢な環境のもと、自由な創作活動に励むことのできる場なのである。世界最大のアニメーション映画祭アヌシーで、一般コンペティション部門よりも学生部門の方がエキサイティングであるという声がよく聞かれるのも、理由なきことではない。

将来の才能を育成し、若きスターたちの活躍の場となるアニメーションの学校。世界には、どのような場所が存在し、どのような色を持っているのか? 映画祭から見えてくる世界のアニメーションスクール事情を紹介したい。

イギリス伝統の王立芸術院の卒業制作The Eagleman Stag(Mikey Please監督)は、幼年時代の新鮮な感覚を取り戻すために虫の研究をする科学者の話。発泡スチロールや紙を使った野心作で、学生作品ながら英アカデミー賞のアニメーション賞を受賞した。

○ヨーロッパ

イギリスを代表するアニメーションの教育機関は大学院生のみを対象とする二つ。王立芸術院(Royal College of Art、通称RCA)と国立映画テレビ学校(National Film and Television School、略称NFTS)である。イギリスでは伝統的にCMやミュージックビデオ制作が盛んで、フリーランスの個人作家たちの活躍の機会が多いし、小規模・中規模のスタジオも目立つ。ヨーロッパで最も伝統あるアニメーションスクールのひとつRCAは、作家性の強い作品を多く生み出し、そういった分野に多くの人材を輩出する。対するNFTSは、産業向けの人材育成を念頭に置いており、卒業作品も、大規模なグループワークによるものとなることも多い。

近年のヨーロッパ・アニメーションの隆盛の中心地であるフランスは、アニメーション教育大国でもある。最も有名なのはゴブラン(Gobelins, L’ecole de l’image)だろう。ウェルメイドなショートショート作品を多数生み出すこの学校は、フランスのみならずアメリカ・ハリウッドのアニメーション産業に人材を輩出することも多い。アヌシー国際アニメーション映画祭で上映プログラムの前に上映されるオープニング映像を作る課題があることでも有名だ。現在、フランスで最も勢いのあるアニメーション・スタジオ、フォリマージュ(Folimage)が経営するラ・プードリエール(La Poudrière)も、人気のあるアニメーションスクールである。優秀な卒業生にはスタジオで働く道が用意されたり、デビュー作品(卒業後の初めての作品)の監督の機会が与えられたりもする。ゴブランとラ・プードリエールと毛色は違うが、コンピュータ・グラフィックの専門学校スパンフォコム(Supinfocom)も、3DCGを用いた卒業作品で目立つ。学生たちは卒業後、アニメーションおよびゲーム業界で働くことが多い。その他にも、国立高等装飾美術大学(ENSAD: École nationale supérieure des Arts Décoratifs)、エミール・コール学校(École Émile-Cohl)も、クラフト色・イラスト色の強い作品が特徴的である。

隣国ベルギーを代表するのはゲント王立芸術アカデミー(KASK: Koninklijke Academie voor Schone Kunsten)で、ヨーロッパで最も古い歴史を誇るアニメーション学科のひとつがある。

ドイツもまた、アニメーション教育で勢いがある。フィルムアカデミー(Filmakademie Baden-Württemberg)のアニメーション学科は、アニメーション産業で通用する人材を育てることを目標に掲げている。ドイツを代表するアニメーション作家アンドレアス・ヒュカーデも指導にあたり、卒業作品は大規模なプロジェクトというかたちで制作されることが多い。また、エンターテインメント性と社会性を兼ね備えた作品が目立つ。フィルムアカデミーはシュトゥットガルト国際アニメーション映画祭とのあいだに深いつながりがあり、映画祭と同時期に開催されるカンファレンス兼見本市FMXを主催するなどしている。ドイツでは他にも、コンラッド・ウルフ映画テレビ大学(Hochschule für Film und Fernsehen „Konrad Wolf“ Potsdam-Babelsberg)やカッセル芸術大学(Kunsthouchschule Kassel)などといった学校のアニメーション作品も、映画祭シーンを賑わすことが多い。

スイスのルツェルン芸術工科大学(Hochschule Luzern)は、小規模ながら良質な作品を作る個人作家を定期的に生み出している。学校自体もルツェルン・インターナショナル・アニメーション・アカデミー(Lucerne International Animation Academy)を主催するなど、アニメーション制作とそれを取り巻く環境に対する意識が高い。

北欧・中欧・東欧には、いくつかの国に特徴的な学校がある。とりわけ、社会主義時代にアニメーション制作が盛んだった国で、当時から活躍していた作家たちが指導する学校の存在が目立つ。

エストニアとフィンランドの学生作品から感じられるのは、エストニアの巨匠プリート・パルンの大きな影響である。パルンは、フィンランドのトゥルク・アーツ・アカデミー(Turun Ammattikorkeakoulu)では1994年から2007年、エストニアのエストニア美術アカデミー(Eesti Kunstiakadeemia)では2006年から現在に至るまで教鞭を執り、奇妙なキャラクター・デザインと突拍子もないアイデアに溢れた特徴的な作品が生み出されるのに大きな役割を果たしている。

ポーランドでは、イエジ・クチャがクラクフ美術大学(Akademia Sztuk Pięknych w Krakowie im. Jana Matejki)で、ピョートル・ドゥマウアがウッチ国立映画大学(Państwowa Wyższa Szkoła Filmowa, Telewizyjna i Teatralna im. Leona Schillera w Łodzi)で、それぞれ後進の指導に励んでいる。

チェコでは、チェコ国立芸術アカデミー映画学部(Filmová a televizní fakulta Akademie múzických umění、通称FAMU)のアニメーション学科の教師陣に、チェコ・アニメーション界の重鎮ブジェチスラフ・ポヤルやミカエラ・パヴラートヴァといった名前を見つけることができる。

ロシアの主なアニメーションスクールは二つ。世界最古の歴史を持つ映画大学、全ロシア映画大学(Всероссийский государственный университет кинематографии имени С.А.Герасимова)内のアニメーション学科とシャール・アニメーションスクール(Школа-студия анимационного кино Шар)である。全ロシア映画大学では、グループワークによる制作体制で、クラシカルな雰囲気漂う短編アニメーション作品が作られる。シャールはノルシュテインやフルジャノフスキーら、ソ連時代の国営スタジオであるソユズムリトフィルムを代表する面々が設立したスタジオ兼学校で、現在ではイワン・マクシーモフら新世代の作家が指導に当たり、クラフト性と温かみのある古き良きロシア・アニメーションの伝統を積極的に引き継いでいる。

北欧のなかで独自路線を進んでいるのはデンマークだ。アニメーション・ワークショップ(The Animation Workshop)は、産業での雇用につながるキャラクター・アニメーションを学べる専門学校で、卒業作品もパロディ色の強いものが目立つ。

エストニアの鬼才プリート・パルンの影響が強いフィンランドのトゥルク大学の作品はアニメーション映画祭でも常連である。人間と虫との奇妙な融合を描くSwarming(Joni Männistö監督)は、ザグレブやSICAFなどで最優秀学生作品に選ばれている。

○北米

アメリカには西海岸と東海岸にそれぞれ代表的な学校がある。
カリフォルニア芸術大学(California Institute of the Arts、通称カルアーツ)は、ウォルト・ディズニー長年の念願として作られた美術大学で、アニメーションを学ぶための二つの学科がある。キャラクター・アニメーション学科はハリウッドを中心としたアニメーション産業に人材を輩出し、過去にはティム・バートンやジョン・ラセター、ブラット・バードらも卒業生である。実験アニメーション学科が目指すのは、芸術の文脈におけるアニメーション制作のあり方を学ぶことであり、個人作家向けである。キャラクター・アニメーション学科に比べ、作品が用いる手法やスタイルは多彩である。

東海岸ではロードアイランドデザイン学校(Rhode Island School of Design)の勢力が強い。作品の特徴としては、手描き平面作品が目立ち、北米最大のオタワ国際アニメーション映画祭の最優秀学校ショーリール部門の常連となっている。つまり、質の高い作品をひとつふたつではなく複数揃えることができるということだ。

カナダにおいては特定の学校が目立つということはないが、エミリー・カー美術大学(Emily Carr University of Art + Design)、シェリダン大学(Sheridan College)、コンコルディア大学(Concordia University)など、各地にアニメーションを学べる教育機関が揃っている。カナダの学生作品は、むしろ、カナダ国立映画制作庁(National Film Board of Canada、通称NFB)が行っている学生・若手向けプログラム「ホットハウス」の成果が目立つ。このプログラムは、若手作家を対象に、NFBの設備を使って、企画立案からポストプロダクションまでプロと同様の作品制作プロセスを体験させるものであり、マルコム・サザランドなど、優れた作家を生み出すひとつのきっかけとなっている。

カルアーツのエクスペリメンタル・アニメーション学科の卒業作品The Wonder Hospital(Beomsik Shimbe Shim監督)。人形アニメーションと3DCGを混ぜた実験的な手法によって、美容整形の問題に切り込む作品。第14回メディア芸術祭アニメーション部門の奨励賞も受賞。

○アジア

近年、学生作品界隈におけるアジアの存在感は高まっている。
韓国では、韓国国立映画アカデミー(한국영화아카데미)の成果が目立つ。大学院レベルにおいては、選抜された学生が、外部の商業スタジオのスタッフを雇って、長編映画を完成させるプロジェクトがあり、2012年のアヌシーにはThe Dearestがコンペティションに入選して話題となった。

近頃よく指摘される中国インディペンデント・シーンの盛り上がりは、大学でのアニメーション教育の枠外で起こっている印象がある。しかし、中国美術学院や中央美術学院といった美術系大学のアニメーション専攻でユニークな手法を用いた作品が散発的に作られたり、また、中国を代表する映画大学である北京電影学院も、産業寄りのアプローチで、クオリティの高い作品を生み出している。

日本では、東京藝術大学大学院映像研究科内に、2009年、初めて国立のアニメーション教育機関が設立された。2010年、ザグレブとアヌシーという大きなアニメーション映画祭において最優秀学校賞を受賞するなど、映画祭界隈では華々しいデビューを飾っている。また、多摩美術大学は、グラフィックデザイン、情報デザイン、油絵など、様々な学科から優れた学生作家を生み出しつづけている。

[リンク集]世界のアニメーションスクール

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土居伸彰(アニメーション研究・評論)
1981年東京都生まれ。アニメーション研究・評論。日本学術振興会特別研究員、東京造形大学非常勤講師。作家らと共に立ち上げたインディーズレーベルCALFなどを通じて、映画祭を中心に上映される世界中の短編アニメーションについての研究・評論・上映を介した紹介活動を行っている。編著書として『ドン・ハーツフェルト』(CALF、2012年)、訳書としてクリス・ロビンソン『ライアン・ラーキン やせっぽちのバラード』(太郎次郎社エディタス、2009年)、などがある。