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[Works] セーラー服とおりがみ – Birgit Graschopf

August 5th, 2012 Published in こんな作品つくりました

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オーストリア政府のアーティスト・イン・レジデンスプログラム[*]によって7月まで日本に滞在していたBirgit Graschopf(ビルギット・グラショプフ)氏。写真という技法をベースに、ドローイングやインスタレーション、パフォーマンスなどを展開するグラショプフがこれまで制作してきた作品も含め、今回の滞在中に試みた新作を紹介しよう。

古典的な写真の技法を正統に用いる彼女の試みは常に斬新だ。「社会の中で働く様々な力の構造と、それがパブリックあるいはプライベートな空間にいかに影響を与えるかに興味がある」というグラショプフの作品制作は多くがフィールドワークから始まる。場が持つ記憶やそこで語られてきたストーリーに耳を傾け、自らのコンセプトによって再解釈を行なうというサイト・スペシフィックな作品を得意としている。

ギャラリー空間の構造に焦点をあてて制作した《Wall Exposure / UNTITLED》は、壁面にイメージ(光)を定着させるパフォーマンスを行い、さらにその結果として定着されたイメージを、四角に切り取られたギャラリー壁の向こう側から鑑賞するという、入れ子構造になった空間インスタレーションだ。

《Wall Exposure / UNTITLED》 展覧会「Space Shift」(キュレーション:Das Weisse Haus, Elsy Lahner, Alexandra Grausam)でのパフォーマンスの様子(上)と展示風景(下), 2.20 m x 2.30 m, 2011

 

《SWARM》Color Print mounted on Diasec, 111 cm x 166 cm, 2011

《SWARM》では、地平の彼方まで張られた氷の世界でスケートをする人々と、さらに重力から逃れて空中へ滑り飛ぶ人々をデジタル加工によって配置している。一見すると氷上や空中で人々がスケートを楽しむ姿を表しているように見えるが、加速したスピードの中で重力すら失いつつあるような我々の現代生活に潜む危うさを描写した作品と読み解くこともできるだろう。この作品のタイトルになっているswarmという単語には「(動いている)昆虫の群れ、(混乱している人は動物の)群れ」などの意味があることから、決して楽観的な風景として解釈されえないことが理解される。

《TABLE TOP BACTERIA》3.55m x 1.95m, 2008. ウィーンのKunstraum Niederösterreichで開催された「Ansichtssache」展での展示風景。

《TABLE TOP BACTERIA》にはいくつかのバリエーションがあるが、写真の作品はウィーン中心部にある展示スペース「Kunstraum Niederösterreich」で開催された展覧会での展示作品だ。このスペースは2005年にオープンして以来、様々な領域を横断するような実験的なプロジェクトや若手アーティストの作品を中心に扱っている。2008年にここで展示することに決まった時、グラショプフはまずはじめにこの建物が持つ記憶をたどることから始めた。そして、以前オーストリア政府の建物だった際にこの空間が食堂(=人々が食卓を囲んで食べ物を食べながらコミュニケーションを交わす場)であったことが分かり、このことをコンセプトの起点にして作品を制作。ウィーンでは、春から夏にかけて注ぐ温かな陽光を求めて屋外のカフェで会話を交わしながら食事をする光景をよく目にするが、彼女はそんな風景を頭上から撮りおろし、画像を切り抜いてコラージュする。そうしてこの壁面に配置されたモチーフは、食卓を囲む人で構成されたバクテリアのような様相を呈している。場が有していた機能や意味を読み取り、食を通じてコミュニケーションを図る人の活動と、人体内で食物の分解プロセスなどを担うバクテリアという細菌とのアナロジーをもたらしたのがこの作品だ。

そして、今年4月から7月までの日本滞在中に制作した作品を紹介しよう。数ヶ月の滞在の中で、やはり彼女が始めたのは周囲の環境へのフィールドワークだった。そうして出会ったのが、日本人女性が着ているプリーツスカート(特に女子高生のセーラー服)だ。「このスカートが有する女性としての周囲との境界や記号に潜む意味」を読み取った彼女は、頑丈な厚紙でプリーツスカートを作った。「こうした女性的な意味に加えて、この(厚紙の)硬さが重要なんです。私がこの硬いスカートを着用しようとする行為、それはすなわち見慣れぬ異国の環境に適応しようとする試みを表しています。でも(質の違いゆえに)あまり上手く適応できないという結果をもたらし、私は外から来た異国人のままなんです。さらに、このスカートでは日本に古くからある切り絵やおりがみに対する意識も表しています。」こうしたコンセプトによって、自ら「ガイジン女性パフォーマンスプロジェクト”Female Gaijin” performative project」と称して撮影したのが次の写真だ。

《There’s always a little bit of rain almost everyday》2012

《Adaption》2012

《This is mine》2012

《Calligraphy》2012

自分の周囲の環境を敏感に感じ取り、外国人として率直に受け取った違和感を写真という技法・メディアを用いて自らを被写体として作品にする。梅雨時期に家屋の屋根の上でビニール傘をさして立つ《There’s always a little bit of rain almost everyday》。テレビアンテナとビニール傘の金属骨、さらにトタン板と厚紙のプリーツスカート、これらの類似性により環境に適応しているかのような姿を皮肉に謳う《Adaption》。パブリックな空間とプライベートな空間の境界として機能している青いトタン板の塀と、それに対比するかのように厚紙のスカートで周囲の環境から自分の個としての境界を区切る《This is mine》。道路のサインに融け込むかのように配置しつつも強烈な違和感を醸し出す《Calligraphy》。ここではこれら4点しか紹介していないが、実際に制作された作品はさらに多岐に渡り、アナログカメラで撮影した写真をウィーンに戻ってすべて作品として仕上げるという。日本でこれらの作品が展示される日を楽しみにしたい。

Birgit Graschopf(ビルギット・グラショプフ)
1978年ウィーン生まれ。ウィーン応用美術大学で写真を学び、個展をはじめ様々なグループ展に参加。今年1月には、所属するドバイのCarbon 12 Galleryで個展を開催。写真というメディアを中心にしつつ、ドローイング、インスタレーション、パフォーマンスなど複合的な形態の作品を発表する。mail@birgitgraschopf.com www.birgitgraschopf.com

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[*]オーストリア政府による アーティスト・イン・レジデンスプログラムについて(東京都荒川区)

オーストリア政府文化省は、オーストリアの若手アーティストを東京に6ヶ月間滞在させ見聞を広める機会を提供するために、長年にわたり荒川区に小さな邸宅を借り受けている。 本国の審査され推薦を受けた若手アーティストは滞在のための奨学金も助成される。このプログラムは日本に限らないが、基本的な方針は、有望なアーティストが見聞を広め、異文化の背景を学び制作する機会を提供すること。日本のアーティストやアート関連の機関・施設と交流を図り、日本のプロジェクトに積極的に関わることを奨励している。これまで非常に多くのアーティストが参加し、コラボレーションプロジェクトを多数生み出しており、広い意味で日本とオーストリアの文化交流や対話を促進している。荒川区はオーストリアとの長期的な友好関係により在日オーストリア大使館に協力し、来日するアーティストを好意的にサポートしている。

取材協力:オーストリア大使館/オーストリア文化フォーラム