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[レビュー] スロベニア人作家による展覧会「ABSOLUTELY FABULOUS 5」

December 31st, 2011 Published in レビュー&コラム

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ばかばかしいほどのユーモアに溢れながらも、現代のメディアのあり方や資本主導型社会の構造に対して批判的な眼差しを投げつけるスロベニア出身の2人のアーティスト、ニカ・オブラク & プリモージュ・ノヴァク(Nika Oblak & Primoz Novak)。今、彼らの展覧会「ABSOLUTELY FABULOUS 5」がニューヨーク西52番街のGallery MCで開かれている。2003年から共同で活動を開始したふたりによるここ5年間の作品を一同に展示。このレビューでそれらの作品を一つずつ紹介していこう。

《Going South》, 2009, video

《Going South》は、手押し車を最も長い距離押し続けたギネス世界記録(*)に基づく「架空の」ドキュメンタリー映像作品。ニカとプリモージュは、3年と12日の歳月をかけてスロベニアの首都リュブリャナからアラブ首長国連邦のシャールジャに至る14,500キロの道のりを手押し車で移動して、手押し最長距離のギネス記録を達成する、という設定のもとに映像作品を制作した。
この架空のドキュメンタリー作品は、彼らの制作モチーフでもあるメディアや資本主導の社会をテーマにしており、ここでは地球温暖化や様々な環境問題を取り上げている。それも、メディアが発信するありきたりのコンテクストを踏襲するような表現で。鑑賞者は、メディアが日常的に伝える情報に対して自分たちがどのように認識しているかという関係性について、知らず知らずに意識させられてしまう作品だ。

(*)この作品の元になった実際のギネス世界記録は、オーストラリアのボブ・ハンリーが1975年4月24日〜1978年5月6日までの3年12日を費やして、シドニーを出発し、タウンズビル、マウントアイザ、テナントクリーク、アリススプリングス、ナラボー平原、パース、アデレード、メルボルンなどを経由してシドニーに戻るルートで14,500キロを移動して達成した。

そして次の展示作品《The Box》は、空気圧を利用したビデオインスタレーション作品。ゴム製のボックスに液晶モニターが設えられ、空気圧でゴムが動く仕掛けが組み込まれている。コンピュータープログラムで制御された仕掛けによるゴム製ボックスの動きと、モニタ内のふたりの動きが絶妙にシンクロして3次元の現実空間に伝えられる。この作品では、メディアのシステムや展示空間としてのホワイトキューブからの逃避を試みる様子が表現されている。とは言うものの、あたかも画面内のふたりが自分たちを囲っているゴムを伸ばしたり、モニター面に頭突きしながら遊んでいるかのようにも見られ、作品の意味を読み取る以前に、その面白おかしさを感じずにはいられない。昨年2月に、第13 回文化庁メディア芸術祭アート部門の推薦作品として、《The Box》のアップデートバージョンである《Box 2》が国立新美術館で展示されたことは記憶に新しいだろう。

YouTube Preview Image

 

《Recommended by Curators Worldwide》, 2009, billboard

《Recommended by Curators Worldwide》は、幅5メートル、高さ3メートルの広告看板作品。この広告看板は、ふたりのプロモーション用に制作された。しかしそれは、ほとんど誰の目にも触れることのないイギリス北ウェールズの森の中に設置されている。木々が倒れる音すら誰も耳にすることがない奥深い森である。こうした場所に設置することで、人の目にとまって初めて価値を持つ広告看板というものの機能に対し疑問を投げつけている。

ここから紹介する一連の作品《We did This and That》は、ニカとプリモージュが「架空の」ギネス世界記録を達成した様を表現した写真だ。奇抜なアイデアによる馬鹿げた記録を視覚的に表現し、見せ物的な楽しい芸で目を引くことによって、現代社会での成功と名声に対する執着のアナロジーをあらわしている。

《We Did This and That》, 2005-2007, photographs「わたしたちは、この写真を撮るために、1996年から、自転車36台、スーパーマーケットの手押しカート30台、テレビ14台、シャンデリア12個、ベッド4台、スキー2セット、コンピューター2台、セスナ2機、棺桶2つを食べてきた。」

「わたしたちは、この写真を撮るために風船ガムで直径58.4センチの風船を膨らませた。」

「わたしたちは、この写真を撮るために58時間9分手を叩き続けた。」

「わたしたちは、この写真を撮るために1.6キロの距離を1時間14分かけて鼻でオレンジを押し進めた。」

「わたしたちは、この写真を撮るために頭の上に牛乳瓶を乗せてバランスをとりながら130.3キロの距離を歩き続けた。」

次の作品《Coming Soon》は、カルト・ムービー(公開当初はヒットせず、後に徐々にあるいは爆発的に人気が出てきた映画)のポスターを再構成した一連の作品。ニカとプリモージュは、オリジナルの俳優に代わってポスターの主人公として登場する。ライトボックスによって制作されたこの作品は、あたかもふたりがスーパースターであるかのようなオリジナル感を演出している。画像の作品は、ロバート・デ・ニーロが有名になるきっかけとなった映画「タクシー・ドライバー」のポスターを捩ったもの。プリモージュがデ・ニーロに扮しており、キャスト名がすべてニカとプリモージュの名前に置き換えられている。

《Coming Soon》, 2009, light box

さらに《Shund》と《Cab Driver》は、映画《パルプ・フィクション》と《タクシー・ドライバー》のオリジナル予告編を一コマずつ再構成した映像作品。おもちゃの車、銃、看板、紙などの簡単な仕掛けとクロマキー合成を用いて、すべてスタジオで制作した。ジョン・トラボルタ、サミュエル・L・ジャクソン、ユマ・サーマン、ロバート・デ・ニーロなどの全キャストをニカとプリモージュのふたりだけで演じている。各シーンの背景は、彼ら自身の写真とインターネットから取られた画像のフォトコラージュで組み立てた。既存の有名な映画を再構成し、実在しない架空の映画のあらゆる配役を演じることで、ふたりは架空のスーパースターとなっている。

映画《タクシー・ドライバー》から再構成した《Cab Driver》, 2008, video

映画《パルプ・フィクション》から再構成した《Shund》, 2008, video

 

Nika Oblak & Primoz Novak(ニカ・オブラク & プリモージュ・ノヴァク)

2003年から共同で制作を続けているアーティスト・ユニット。現代のメディアと資本主義の社会が有する視覚的・言語的な構造を分析し、批判的検証を行うが、その際、表現にユーモアを吹き込み、商業世界とアート界の類似性を描き出している。 常に現実とフィクションの境界領域をテーマとして扱い、一般消費者を誘惑するマスメディアが用いるビジュアル戦略と構造を作品に取り入れている。また、二人は主人公として作品の中に頻繁に登場し、さまざまな役割を演じる。制作ジャンルはビデオ、写真、新しいメディアとインスタレーションなど様々である。イスタンブール・ビエンナーレ、トランスメディアーレ、シャルジャ・ビエンナーレなど世界各地で作品を展示。www.oblak-novak.org

 

展覧会:ABSOLUTELY FABULOUS 5
会 期:2011年12月15日〜2012年1月6日
会 場:Gallery MC
所在地:549 West 52nd Street 8th Floor New York, NY 10019
電 話:212.581.1966
会場HP:www.gallerymc.org
協 力:スロベニア共和国文化省、ALkatraz Gallery, Ljubljana and MOL – City of Ljubljana, Slovenia
キュレーション:Jovana Stokic

この展覧会が終了した後、2012年には日本での展示を計画しているという。ユーモアに満ちつつも、批判精神に溢れた彼らの作品が日本にお目見えする日が楽しみだ。