[フェス] 逆境からのメディアアート機関の挑戦
October 24th, 2011 Published in 世界のフェスティバル | 1 Comment
世界中で新しい文化のフェスティバルが生まれ成長しています。「世界のフェス・ディレクター」では、そんなフェスティバルで活躍するディレクターに注目し、ご自身の活動やフェスティバルの意義、今年のテーマなどを語っていただきます。今回も前回に続きオロフ・ファン・ウィンデン(Olof van Winden)氏に、オランダ・メディアアート・インスティチュート(NIMK)のディレクターに就任した経緯や、オランダのメディアアートを取り巻く状況についてお話をうかがいました。
オランダ・メディアアート・インスティチュートのディレクター就任と2度目の逮捕
TodaysArt Festivalをオーガナイズするかたわら、僕は一年を通じて様々な場所でプログラムをキュレーションしてきました。2010年のバンクーバー冬季オリンピック開催にあわせたオランダ人アーティストの作品展示などもありました。
今年に入って、フェスティバルの準備を始めていた2月に、オランダ・メディアアート・インスティチュート(NIMK)から連絡がありました。「私たちはディレクターを探していますが、興味はありますか?」と聞かれたんです。僕は自分のフェスティバルの仕事が好きですし、様々な国で開催することも考えていたので、仕事を探していた訳ではなかったのですが、まずは話を聞いてみようと思いました。そして、彼らが何を求めているのかディスカッションしました。
この機関は、1978年に設立された歴史ある機関で、メディアアート作品の展示を行なうほか、初期の重要なビデオアーカイブやコレクションも有しています。そして、設立当時この機関のミッションはメディアアートの正当性を主張することでした。なぜなら、ここが立ち上がった当初、美術館はメディアアートというものを受け入れなかったという状況があります。メディアアートはいわゆるアートとはみなされていませんでした。そこで、彼らはこの機関に美術館と同じような重要性を持たせたかったんです。そして時代が進み、今ではメディアアートが受け入れられ、美術館でも展示されるようになりました。このような進歩は、まさにNIMKのような機関の絶え間ない努力の賜物だと思っています。
そして僕は、この機関が未来に向かって進むべきだと感じました。なぜなら、僕にとってメディアアートは映像やインスタレーションだけではなく、さらに新しい領域を切り開くものだと思っていますし、シアター、ミュージック、パフォーミングアーツ、デザイン、ビジュアルアート、ファッション、建築など、あらゆる領域に介在しうるからです。
僕にとってこの機関を未来に向けて前進させてアップグレードすることは、とても大きなチャレンジですし、興味がありました。そこで、ここのディレクターをTodaysArt Festivalのディレクターと兼任するという条件を提示しました。その理由として、TodaysArt Festivalは僕自身のフェスティバルで、まさに僕の赤ん坊みたいなものです。そしてもう1つの理由は、TodaysArt Festivalが持つ活気に満ちたネットワークを、ここのような歴史的な機関と繋げることで、新しい創造へのダイナミクスをもたらすことができるからです。この条件が認められて、今年の5月からこの機関のディレクターになり、2つの仕事を持つことになりました。
そして徐々に活動を開始しはじめた6月に、文化省の大臣から通達を受け取りました。そこには、この機関に充てられていた補助予算を100%(全額)カットするという内容が書かれていました。就任早々この機関を何とか存続させるという3つ目の仕事を抱えることになったんです。この措置は我々に限られたことではなく、V2_やSteimなどメディアアート系の全機関が対象になりました。
そこで、6月27日に文化芸術への予算支援削減に反対する大規模な抗議集会がデン・ハーグで開かれました。もちろん僕だけではなく、V2_やSteimなどオランダを代表する他のメディアアート機関のディレクターたちも参加していました。そして僕とガールフレンドが最前列で座り込みをしていたところを、何の暴力もふるっていないのに警官によって逮捕されたんです。抗議をしていた僕らの誰も暴力をふるわなかったのに、警官だけが暴力を振るったんです。この逮捕劇も記事[左画像]になり、流血した顔写真入りでメディアに取り上げられました。逮捕された時の映像も残っています。
文化省から予算削減の通知が届いた時、ここのスタッフや施設を維持することは中々難しい挑戦だと思いました。フェスティバルはプロジェクトベースで動かせるので何とかなりますが、こうした施設にはコレクションや資料があり、作品の展示や保存もしなければいけません。さらに2,000点以上あるビデオアーカイブのデジタル化や、Tate Modernなどヨーロッパの他の美術館や施設の映像資料の保存・修復作業も手がけていますので、100%の予算削減で現状を維持することは至難の技です。しかし、僕はオランダのメディアアートや新しい領域で活動している組織を維持することにとても責任を感じていますし、これは新しい文化領域に携わる僕らにとっての挑戦だと思っています。なぜならそれらが無くなってしまったら、新しい文化領域のみならず、それに携わる人々をも失ってしまうからです。
[予算削減の通達をきっかけに始まったNIMKによる支援呼びかけ。NIMKのサイト、Facebookのファンページ、メールなどを通じて、支援策について広く一般の参加者から意見を募っている]
もしこれ以上現状維持が難しくなった場合、展示、調査、アーカイブ、保存などの活動から、どれかを捨ててどれかを選ぶべきでしょうか。実はそうではないんです。というのもそれらは全てが連鎖しているからです。こうした時に必要なのは、切り捨てるということではなく、プロデュースという新たな業務を戦略的に打ち立てて、資金調達のためのストラクチャーを導入することが必要なんです。ですから、将来の試みとして検討しているのは、毎年デン・ハーグで開催しているTodaysArt Festivalをアムステルダムで2年に一度開催するようにして、その間にTodaysArt Festivalの海外展開をしながら、国内の様々な機関を存続させるために、新たなストラクチャーを構築することです。
連携によるプラットフォーム構築を目指して
僕がここのディレクターになる時、ちょうどV2_のディレクターであるアレックスから連絡があって、TodaysArt FestivalとDEAF(Dutch Electronic Art Festival)で連携しようという話がありました。事務所スペースやコンテンツ、予算を共有するという連携です。さらに、EYEオランダ・フィルム・インスティチュートがアムステルダム中央駅の近くに建てられる建物に移るという話があり、現在その建設が進んでいます。しかし、EYEも予算削減の対象に入っているため、とても厳しい状況にあります。そこで、お互いに連携しようという話もあります。それぞれ規模を縮小しながらでも、連携することによって大きなプラットフォームを形成することができるんです。
震災後の日本でのアーティスト支援に向けて
TodaysArt Festivalを近い将来日本で開催するために少しずつ動き始めています。僕が日本を訪れたのは、阪神大震災があったすぐ後の神戸ですが、今年3月に起きた大震災は、想像に絶するものがあります。そして、何か日本のために我々ができることがないかと考えた時、まず始めに義援金を集めることを思いつきましたが、自分たちならではのやり方を考えるならば、やはりアーティストを招聘することや、展示機会を提供して、彼らの活動を支援することでしょう。そういった意味でも、日本で2012年にTodaysArt Festivalを開催することはとても意義あることだと思っています。
オランダ・メディアアート・インスティチュートについて
7つの役割:
- 展示:ギャラリーでのメディアアート作品の展示
- コレクション:1978年の設立以来、ビデオとメディアアートの収集が現在も行なわれ、インスタレーションを含むほぼ全ての作品が展示可能。ビデオコレクションや資料はWebサイトからも検索できる。
- ディストリビューション:メディアアートを広く一般に普及させるため、コレクションからビデオやインスタレーション作品などを貸出し。
- リサーチ:アーティストへのリサーチサポート。
- 保存・修復:1992年からメディアアートの保存に関するセンターとして機能し、他施設や個人のビデオコレクションの修復・保存も行なっている。
- 編集・サービス提供:ポスト・プロダクションなどのサービス、アーティストに対するテクニカルなアドバイスを行なう。
- 教育普及:一般人、小中学生、美大生、アーティスト、美術史家や保存学者など、さまざまな対象に教育プログラムを提供。
開館時間:
- 展示ギャラリー:火曜〜金曜 11時〜17時、土曜・第一日曜 13時〜17時
- メディアテーク:火曜〜金曜 11時〜17時(その他の時間帯は予約制)
- オフィス:月〜金、9時〜17時
所在地:Keizersgracht 264, 1016 EV Amsterdam
連絡先:info@nimk.nl
公式HP:www.nimk.nl
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オランダのフェスティバルTodaysArt Festivalとオランダ・メディアアート・インスティチュートのディレクターを務めるオロフ氏の生い立ちや活動内容を、2回にわたってご紹介してきました。
前回のvol.1 「ホテルマネージャーからの出発」はこちらからご覧いただけます。
「世界のフェス・ディレクター」では、ひきつづき様々なジャンルのフェスティバルとそのディレクターに焦点をあてて、ディレクターご自身の活動やフェスティバルの全体像を紹介するとともに、フェスティバルの意義やテーマ、人生観や想いをお聞きして、色々な角度からそれぞれの魅力をお伝えしたいと思います。
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