DEPARTURE



つららと建築:さっぽろ垂氷まつりとツララボ 〜つららが繋げる札幌という地とメディアアート〜

February 13th, 2017 Published in インタビュー

最近、真冬でも見かけることが少なくなった「つらら」。これにはつららのでき方と家屋の構造の変化に深い関係があるという。そのつららをテーマに2016年から始まったのが「さっぽろ垂氷(たるひ)まつり」で、北国の暮らしにとって身近な存在をテーマとして、アート、サイエンス、暮らし、文化など様々な側面から札幌の冬を再発見するイベントだ。

今回の「さっぽろ垂氷まつり 2017」では、「つららが美しくできる建築とは?」をテーマに、実際につららのミニチュアをつくり、その出来栄えを競う「つらら建築ハッカソン」が開催された。そこでDEPARTUREでは「さっぽろ垂氷まつり」を実施している「ツララボ」(後述)のプロジェクトリーダーである小町谷 圭氏にその成り立ちや意義について話をうかがった。

「ツララボ」の始動と「さっぽろ垂氷まつり」のはじまり

現在、札幌大谷大学のメディアアートコースで教鞭をとっている小町谷氏は、自身もメディアアーティストとして作品を制作し活動している。東京から札幌に赴いて、札幌という地とメディアアートの関係性を探っていたところ、雪の研究で高名な中谷宇吉郎と、宇吉郎の娘であり霧の彫刻で知られるアーティストの中谷芙二子という2人の系譜に強いインスピレーションを受けたという。特に、雪の研究によって雪国における実生活のインフラ改善に及ぼした宇吉郎の多大な功績や、札幌国際芸術祭2014で宇吉郎の研究成果が作品として展示され、同時に芙二子が札幌芸術の森美術館で霧の彫刻を披露するなど、札幌という地で開催される国際フェスティバルとメディアアートの親和性や可能性を強く感じ取った。

こうした観点から、小町谷氏は「つらら」という存在に目を向け、「つらら」をテーマにしてSIAFラボ(*)で2015年に立ち上げたプロジェクトが『Bent Icicle Project – Tulala(愛称:ツララボ)』だ。ツララボは、多々あるSIAFラボのプロジェクトの1つで、アーティストや研究者がプロジェクトの中心メンバーとなって「つらら」を題材・媒介としたアイデアを持ち寄り、ワークショップやイベントを通して雪国ならではの暮らしの可能性を検証・再考するプロジェクト。そしてこのツララボの活動が母体となって展開されたイベントが「さっぽろ垂氷まつり」だ。

(*)SIAF(サイアフと読む)とは、札幌国際芸術祭(Sapporo International Art Festival)の略称のこと。3 年に1 度、札幌市で行われる国際的なアートフェスティバルで、2014年から始まった。第2回目は2017年8月6日(日)~10月1日(日)の57日間の開催を予定している。そして、SIAFラボは、札幌市資料館に開設された「SIAFラウンジ」と「SIAFプロジェクトルーム」の2つのスペースを活動拠点として、札幌独自の芸術祭を実現するために、市民一人ひとりにとっての「札幌」を考え、発見、発信するプロジェクトの総称のこと。フェスティバルの開催にとどまらず、サステナブルで市民に開かれた場を提供している。

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SIAFラボでのツララボの活動と「さっぽろ垂氷まつり」について語る小町谷氏。

ツララボの取り組み

ツララボは2015年に始動して以来、様々なプロジェクトやイベントを実施している。芸術的・技術的な側面からつららを理解する取り組みである「回転式巨大つらら造形マシン」や「人工氷柱製造装置」の制作や、中谷宇吉郎にまつわる関連映像とトークで科学史的視点から紹介するトークイベント、街の中や自然の中で見つけた天然のつららのみならず、マシンで製造した人工のつららを3Dスキャナーでスキャンし、データを収集する「つららの3Dスキャン」。さらに3Dスキャンのデータをもとにした「つららアクセサリー」や「つららチョコレート」の制作、つららスキャンのワークショップなど、実に多岐にわたる。

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「回転式巨大つらら造形マシン」(左)と形成されたつらら(右)

「さっぽろ垂氷まつり 2017」での「つらら建築ハッカソン」

そして今回の「さっぽろ垂氷まつり 2017」で実施されたのが「つらら建築ハッカソン」なのだが、つららと建築の関係は、2016年8月に実施された「さっぽろ垂氷まつり in summer」でのトークイベント「つららと住まう北の建築」から引き続き取り上げられているテーマだ。つららができるプロセスは「屋根に雪が積もる」→「屋根(室内)から漏れた暖気で雪が解ける」→「屋根を伝って流れた水分が凍る」という仕組みになっている。室外と室内の温度差がありながら断熱効果の低い家ほどつららができやすい。下図のように1870年代〜2010年代までの北海道にある家屋の屋根の形状の変化と暖房環境・断熱性の変化が見て取れるが、こうした変化によってつららが出来にくくなったという。

要クレジット

©Masaya SAITO, Sapporo City University

住環境の快適さや利便性を求める一方、北国で暮らす多くの人が、つららにまつわる楽しい思い出や親しみを感じた記憶をもっているだろう。こうした状況を踏まえながら、つららを作り、残す、という試みが「つらら建築ハッカソン」で行われた。「つららが美しくできる建築とは?」をテーマに、参加チーム毎にミニチュアの建築(家)をつくり、つららの出来栄えを競う。会場中央スペースには、専門家にアドバイスをもらい設計をしたシンボルとなる作品を制作・展示。その周辺を取り囲むように、参加チームが制作を行った。制作した作品は「さっぽろ垂氷まつり2017」期間中の2月6日から12日まで、札幌市資料館の裏庭特設会場で一般公開された。

ハッカソン

シンボル作品(左)と参加チームによるミニチュアの建築(中央列・右列)

SIAFラボは「未来のための、札幌を拓く」をテーマに、さまざまなプログラムを通じて、芸術文化活動の担い手となる多彩な人々(アーティスト、キュレーター、研究者、コーディネーター、市民活動団体、ボランティアスタッフなど)を繋ぎ、共に考え、学び合う場として機能し、札幌市内において主体的、自発的な活動を行う人々の拠り所となり、札幌らしい芸術文化活動が育まれるきっかけをつくることを目指している。そして今回紹介したツララボもこうしたミッションを携えながら、つららにまつわる様々なテーマを取り上げ、イベントを通じた作品制作や、技術やノウハウの共有によって、札幌の芸術文化の発展と人材の育成に取り組んでいる。こうした話を伺いながら最後に小町谷氏から今後の展望を聞いたところ、今後はさらに札幌という都市をテーマにプロジェクトを進める予定だという。

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取材協力:SIAFラボ
「ツララボ」の詳細はこちら
「さっぽろ垂氷まつり 2017」の詳細はこちら

<札幌国際芸術祭2017関連のお知らせ>

2017冬季アジア札幌大会連携 創造都市発信事業
札幌国際芸術祭2017 アーティスト・プレビュー 
平川紀道 《datum》
開催日時:2017年2月16日(木)〜19日(日)11:00~17:00(入場は16:30まで)
入場料:無料
展覧会場:モエレ沼公園ガラスのピラミッド雪倉庫(札幌市東区モエレ沼公園1-1)
主催:札幌市
企画運営:札幌国際芸術祭実行委員会
協力:公益財団法人札幌市公園緑化協会、株式会社プリズム、さっぽろ天神山アートスタジオ
助成:平成28年度メディア芸術クリエイター育成支援事業
URL  http://space-moere.org/
※最終日にクロージングトークイベントあり
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札幌国際芸術祭2017 
テーマ:芸術祭ってなんだ?
開催日程:2017年8月6日(日) 〜10月1日(日)【57日間】
会場:札幌芸術の森/モエレ沼公園/まちなかエリア/円山エリア/札幌市資料館/
JRタワープラニスホール/札幌大通地下ギャラリー500m美術館ほか
主催:創造都市さっぽろ・国際芸術祭実行委員会
URL  http://siaf.jp/ 




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