[インタビュー] 小畑多丘
January 10th, 2012 Published in インタビュー
ブレイクダンスをテーマに彫刻作品を手掛ける小畑多丘(おばた たく)さんは、自身もブレイクダンサーという異色の肩書きを持つアーティストです。今回のインタビューでは、小畑多丘さんのアトリエにお邪魔して制作活動や作品についてお聞きしました。
表現手段として彫刻を選んだきっかけを教えてください。
初めは彫刻をやりたかったわけではないんですよ、映像作品を制作したいと思っていました。
予備校時代はクレイアニメ−ションを作ったりしながら、ブレイクダンスを主題にした映像も制作していました。その頃ヤン・シュヴァンクマイエルの映像を見たのですが、すごい衝撃を受けました。リアルな人間の塑像がアニメーションになっていることが凄くおもしろかったんです。そのきっかけで、立体表現に興味を持つようになりました。彫刻は、素材に忠実に向かうストレートさがいいなと思いました。色をつけなくてもいいし、塑像という方法もあって楽しそうに思いました。単純にそれでブレイクダンスを作ったら面白そうと思っていました。自分の中では、ブレイクダンスというテーマがずっとあって、なにかしらブレイクダンスに結びつけていました。
ダンスをはじめたのはいつからですか?
小学生の時から「ZOO」とか「ダンス甲子園」とかをテレビで見ていて、ダンスって超かっけーって思ってました。でも、当時はダンススクールがない時代で、しかも周りでやってる人もいなくて、どうやって始めればいいのか分らなかったんです。
そのころ、NBA(※1)を初めて見てバスケにハマると同時に、アメリカのヒップホップのラップにもハマり聴くようになり、黒人文化に興味を持ちました。そして中学、高校とバスケ部でバスケばかりしていました。高校のときに当時ケーブルテレビでやっていた「YO MTV RAPS」を家で見れなかったのでケーブルテレビが見れる友達にビデオに撮ってもらって見まくってました。そこに入っていたThe PharcydeのDropのMVを見て、映像にも興味を持っていました。
高校2年くらいのときに兄がいきなりブレイクダンスをやりはじめて、自分も教えてもらうようになりました。それからはダンスばかりやっていました。
ブレイクダンスというテーマに関して教えてください。
最初はただ単純にブレイクダンスが好きだし、ブレイクダンスをテーマにした彫刻を作っている人がいないからそんな作品があったら面白いと思ったのがきっかけです。でも、彫刻を勉強しているうちに彫刻的にも面白くしたいと思うようになってきました。そうなると自分の場合は、ブレイクダンスを使って面白い空間を作りたいということに繋がるので彫刻で空間を作り出すためのブレイクダンスを考えるようになりました。
自分の作品は、動きが複雑で激しいので、動きが激しいと人が飽きちゃうんじゃないかっていうのが自分の中であって、その動きだけを見て鑑賞が終わってしまってすぐに作品から興味がなくなってしまわないように、彫刻の構成のなかに意識的に単純な形を取り入れています。
作品を複数で展示空間を構成すると、緊張感がでてきますね?
そうですね。最初の個展で初めて試したんですが、絶対面白くなると感じてました。そして実際、複数点を同じ空間に設置したら本当に面白かったので、自分的に納得できました。
木彫だと台座を作品の中に含めて作り、それを使って展示することがよくあるんですが、自分の個展では、台座をなくすことが緊張感につながって、作品を巻き込む空間全部が作品と一体になって見せられたように思います。台座を使っていたら空間が途切れちゃうんですよ。ブレイクダンスは踊る場として床が大事ですが、自分の作品に台座がないことでテーマに通じたストリート感が出るように思いました。
作品制作の際に特に意識している点は何ですか?
作品を作るときは、正面と横からと2方向からのドローイングを描いてイメージを決めています。どの作品も共通しているのが、顔が地面に対して垂直で、正面を見ている点です。女性は前髪が水平になっていて、男性は目が水平になっています。この要素を全ての作品に意識的に取り入れることで、身体は激しい動きをしていてもまとまって展示をした時に、より緊張感が出るようにしています。
素材についてお聞きしますが、木は一番扱いやすいのですか?
自分は粘土でのモデリングは得意なんですけど、大学で木彫をやってみた時に、その木の存在感がすごくいいなと感じたことが、今の作品に繋がっています。いいと思っているのに木を扱わずに、自分にとって扱いやすい粘土で制作するのは違うなと思うのと同時に、オリジナリティを考えました。
ブレイクダンスのポーズを粘土で作って、型をとって、他の素材、例えばFRP(※2)とかにおこし変えたら、結局アメリカの文化をアメリカの素材で作ることになって、全てただのまねごとになってしまって全然オリジナリティがないなと思うんです。自分は日本人なので、自分なりにそして日本のエッセンスを入れてBBOY(ブレイクダンサー)を表現した方が絶対にいいと思って、木彫でブレイクダンスを作ることになりました。ブレイクダンスに木彫はあっていると思います。
木彫に色を塗っているのは理由があるんですか?
木の色のままだと、その素材に注目しがちで、ぱっと見から木彫という意識で作品を見られがちです。自分の中では、まず単純に形の躍動感や面白さを見てほしいのと、ブレイクダンスの彫刻なので、色を塗って自由に服を着せたいっていう理由で着色しています。色はなるべく単色にしています。
BBOYは、ジャージとかウィンドブレーカーを着ているので、そのイメージを踏襲しつつ、一個の色の物体として見えるようにしています。その色のかたまりとして見てほしいです。ただ顔だけは色は塗っていません。木地って肌の色に見えるのでそれがまたいいなって思っています。
ブレイクダンスというストリートカルチャーをアートに取り入れて、ある文脈にチャレンジしているというより、ずっとご自身の中のテーマとしてやっている感覚なんですね?
そうなんです。だから自分にとっては、ブレイクダンスを扱うことはすごく自然なんです。
あえて奇抜な事をやろうとかではなくて、自分のブレイクダンスのスタイルや、好きなブレイクダンスの形を作る。作品のテーマやコンセプトで悩む人も見てきたので、作りたいテーマが初めから決まっている自分は恵まれていると思います。もちろんいつも作品は面白くしようとはしてますけど。
小畑さんにヒップホップというカルチャーは大きな影響を与えているのが分かりましたが、いまご自身が制作されている作品はどういった人々に見てもらいたいと思いますか?ヒップホップのコミュニティーの人たちでしょうか?それともアート作品として見てもらいたいのでしょうか?
両方見てもらいたいですね。ただ、実際ダンスをやってる人は作品に対してちゃんと自分がこだわって作っているところを指摘してくれるのですごく嬉しいなと思います。だけど、もちろんアート作品として良いと感じてもらえるものを作ろうとしています。
ただダンスの彫刻を作って分かる人だけに感じてもらえばいいという自己満足にはしたくないんです。いろんな人に見てもらって、楽しんでもらいたいです。
ぱっと見でインパクトや興味を煽って、そこから、作品に対する興味が持続するようにしたいです。そのための緊張感っていうのを意識しています。
今後の展開について教えてください。
今後も、ブレイクダンスを扱いますが、対象とする年代が上がってくるのかもしれないですね。90年代の、MCハマーとか実は全然ダンスの種類が違うんですよ。あれはブレイクダンスじゃなくてニュージャックスウィング(※3)とかステップとかなんですけど、その時代は80年代の細めのジャージなどのブレイクダンスとは対照的で、すごい太めで股上がふかいサルエルパンツとかなんですけど、そういうのがかっこよくて、そういうのも彫刻にしたいですね。服と体のバランスでもいろんなことができると思っています。服のパーツとして編んでる靴紐とかチャックだけとか突出させて立体にでかくしたら面白いんじゃないかとか考えたりしています。
それから、これまでは男性がモデルの作品が多かったんですが、女性でも作りたいと思っています。女性の場合は髪型とか遊べるからどんどん空間も作れるし。基本的には人ですね。人間は難しいんですけど、面白いし好きなんですよね。
一貫して変わらないブレイクダンスというテーマで彫刻を作り続けている小畑さん。ブレイクダンスと彫刻という一見、全く繋がらない要素が小畑さんの中では当たり前のように自然に繋がり、そしてその興味が魅力的な作品に帰結していることが分かりました。小畑さんの独自のアプローチが今後、彫刻の本質やアートの領域を超えて、新しい彫刻の形を見せてくれるかもしれません。
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小畑多丘
1980 埼玉県生まれ
1999 UNITYSELECTIONS(HIPHOP TEAM)結成
2006 東京藝術大学美術学部彫刻学科卒業
2007 HIPHOP戦隊BBOYGER結成
2008 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻修了
現在 埼玉県在住
BBOYGER公式ページhttp://bboyger.com/hero/
UNITYSELECTIONS HPhttp://unityselections.com/
※1 北米のプロバスケットボールリーグ National Basketball Associationの略称
※2 繊維強化プラスチック
※3 テディー・ライリーが中心となって1980年代後半に発生・流行した音楽スタイル