[インタビュー] 二象舎 ― 原田 和明
November 15th, 2014 Published in インタビュー
オートマタをご存知ですか。日本で言う「からくり人形」は、ヨーロッパでも古くから作られていて、オートマタと呼ばれます。ハンドルを回すと、歯車や部品、一つ一つが力を伝え合って動き出す西洋からくり装置、オートマタ。その作家として活躍するのが、山口県を拠点に活動する「ニ象舎」の原田和明さんです。少し毒気の効いた愛すべき人形や装置の数々。今回は原田さんに自身の作品や作家になるまでの道のり、オートマタへの思いを伺い、モノづくりに対する情熱的な一面に触れました。
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オートマタの制作を始めるきっかけは何だったのでしょうか?
会社勤めをしていた2002年に、西田明夫さんの「AUTOMATA/動くおもちゃ」という本を読んで、作り始めたのがきっかけです。それまで夢中になれる趣味を探していて、ギターやゴルフ、スノーボードなども試してみましたが、どれも長続きしませんでした。ところがオートマタだけは、別でした。
色々調べているうちにイギリスにはたくさんの素晴らしい作家がいることが分かり、その中でも巨匠として知られるマット・スミスさんに弟子入りしたいとメールをしました。「弟子はとっていないけど、遊びになら来てもいいよ。」という返事でした。「一度遊びに行っても得るものは少ないだろう、ならば同じ町に住んで何度も遊びに行ってしまおう」と思い立ち、会社を退職して、マットさんが住む町の美大を受験ました。無事合格して、何度かマットさんの工房を訪問しているうちに結局、弟子入り。
イギリス滞在中の1年2カ月間でいろいろなことを教わりました。
留学してから現在までの作品の変化について教えてください。
最初は少しでも師匠に近づきたいと思っていました。しかし仮に近づけたとしても、それでは師匠のコピーになってしまう。「それは方向性としてどうなんだろう、自分らしいものを作らなくては」と強く思いました。とはいえ、その「自分らしい」というのがよく分からず、しばらく何を作ればいいのか悩んだ時期がありました。
ヒントを探しに行った図書館で、アフリカ彫刻の本を手にとり、荒々しくて迫力のある形に心を奪われました。「今まで目指してきた精巧なものとは対照的な要素を作品に取り込むことで、変化への手がかりを掴めるかもしれない」。そう思って取り組んだのが、アフリカ彫刻的な人形を使ったシリーズです。
作ってみて、オートマタとはこうあるべき、という先入観が薄れました。それからは心から作ることが楽しくなり、さんざん悩まされた「自分らしさ」に捉われなくなりました。今は、作りたいと思ったものを作り続けていれば、「自分らしさ」は後からついてくるものだろうと思っています。
もともと人を笑わせたり驚かせたりすることが好きなので、作品にもそのようなものが多いですが、例えば自然の景色を見て思う「何となくいいなぁ」という感じが伝わるような作品も作りたいです。
最近は音をテーマにした作品に取り組んでいます。古時計の部品や空き缶など身近なものを組み込んだ「フライジャイル室内楽団」と名付けたシリーズです。引き続きこのシリーズを充実させたいです。
テクノロジーに注目が集まる現代に、手作りのオートマタを作ることについて、
どのような意識をお持ちですか?
テクノロジーにも関心があります。
昔ながらのやり方にこだわらず、作りたいものを実現させるのに一番よい方法を考えて、コンピュータでも必要であれば使っていきたいです。ただ、最新のテクノロジーはどんどん古くなっていきます。できれば長く残る作品を作りたいので、テクノロジーの使い方は慎重に考えて、あまり頼りすぎないようにしたいです。
今後の活動について、お聞かせください。
海外で展示をしたり、逆に世界の優れた作家を日本に紹介していきたいです。
2年ほど前から、自宅の倉庫を少しずつ改装して、ギャラリーを作っています。来年の5月にオープンの予定です。そこでは僕の作品だけでなく、これまで集めてきたイギリス人作家のオートマタも展示します。
オートマタを作り始めたときの28歳という年齢について?
モノをつくるスタートとしては遅いのではないかと気になっていました。
イギリス留学中に、のんびりしている若い学生たちを見て、スタートの遅れは、覚悟というか時間の密度で取り戻せると感じました。ちなみに世界的に知られる西田明夫さんやポール・スプーナーさんは42歳から制作を始めています。
原田さんにとってのオートマタの魅力とは?
もともと、音楽家や詩人など自分を表現できる仕事に強い憧れがあったのものの、僕には何ができるのか、分かっていませんでした。オートマタに出会ってからは、自分を表現できている実感があります。それが一番の魅力です。
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オートマタに対して、時をも縮めてしまう情熱をお持ちの原田さん。作品に向き合う真剣さとそれを伝えるための熱意には圧倒されました。そうした熱意が何かを頑張ろうとしているたくさんの人に届くのだと思います。
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1974年生まれ
2002年オートマタ制作を始める
2006-07年Matt Smith氏に師事
2007年University College Falmouth大学院
Contemporary Craftsコース修了
現在 山口市在住
可愛い!シュール!ユーモラス!
一貫性のない作品を一貫して作りつづけるオートマタ作家。
普段の言動からは想像もつかない、
丁寧かつ繊細手仕事から生まれる作品は、
世界中のファンを戸惑わせている。