[コラム] 文化領域のフェスティバル年表
September 5th, 2011 Published in レビュー&コラム
フェスティバルというものは、どこの国においても本来は収穫を祝ったり、信仰と結びついたものでした。それがいつからかアートや音楽、映画など、文化を対象にしたフェスティバルが生まれました。対象とする領域は今なお広がり続けていますが、それらの歴史を見ていくと、テクノロジーの進化や社会情勢、地域性などとも関係しながら新しいフェスティバルが生まれていることがわかります。
世界初の国際芸術祭は1895年に始まった「ヴェネツィア・ビエンナーレ」ですが、1932年に映画部門が設けられたのが「ヴェネツィア国際映画祭」の始まりであり、世界初の国際映画祭であると言われています。その後、数多くの映画祭が世界中で始まりますが、1960年には「カンヌ国際映画祭」から分離するかたちで、「アヌシー国際アニメーション映画祭」が始まるなど、映画祭の細分化と多様化が進みます。
1970年代以降はメディア技術の進化や普及と歩調をあわせるようにして、コンピュータグラフィックや、ビデオアート、メディアアートのフェスティバルが次々と生まれています。また、同時期にはコミックやマンガに代表されるような大衆文化を対象にしたフェスティバルも次第に増えています。また、1970年には現代美術の見本市「アート・バーゼル」が始まるなど、さまざまなジャンルでフェスティバルとビジネスが密接な関係を持つようになります。
1980年中盤以降、デジタルで表現することが一般層にまで広がると、アマチュアや学生を対象にしたコンテストやフェスティバルも数多く開催されるようになります。日本においては1989年に「CGアニメコンテスト」、1993年に「国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト(IVRC)」、1995年に「学生 CGコンテスト」が始まっています。
1990年代以降の「デジタル技術の広がり」と「新しい文化領域の隆盛」といった2つの潮流からは、スペインの「Sonar」や、イギリスの「Futuresonic」、ブラジルの「FILE」など、さまざまなジャンルが組合わさったハイブリッドタイプのフェスティバルが生まれています。日本では、デジタルアートとアニメやマンガを併せ持った「文化庁メディア芸術祭」が同時期にスタートしています。ハイブリッドタイプのフェスティバルのジャンルの組み合わせは、さまざまなものがありますが、開催地の地域性や歴史によるところが大きいようです。
文化のフェスティバルの歴史を駆け足で見てきましたが、ほんの120年足らずで新しいものが数多く生まれ、変化し続けてきたことがわかります。昔からあるように思っているジャンルや枠組みも、調べてみると意外に新しいことに気づきます。
未来において、今あるジャンルや枠組みのままであるとは考え難く、新しいジャンルを対象にしていたり、既存の枠組みを超えた魅力溢れるフェスティバルがどこかで生まれてくるはずです。伝統あるジャンルの国際的なフェスティバルも素晴らしいですが、新しい分野を切り開くフェスティバルが、日本からも生まれてきて欲しいと思います。
文化領域のフェスティバル年表
▼1890-1940年代
芸術祭がはじまり、それから分かれて映画祭がはじまる
- 1895 世界初の国際芸術祭「ヴェネツィア・ビエンナーレ」はじまる(イタリア)
- 1929 「アカデミー賞」はじまる(アメリカ)
- 1932 世界初の国際映画祭「ヴェネツィア国際映画祭」はじまる(イタリア)
- 1946 「カンヌ国際映画祭」はじまる(フランス)
- 1946 終戦の翌年に「文化庁芸術祭」がはじまる
▼1950年代
文化復興を掲げたフェスティバルが世界中ではじまる
- 1950 文化庁芸術祭から分離するかたちで「芸術選奨」はじまる
- 1951 「ベルリン国際映画祭」はじまる(ドイツ)
- 1955 戦後ドイツの芸術復興を掲げ「ドクメンタ」はじまる(ドイツ)
- 1955 「小学館漫画賞」はじまる
▼1960年代
映画祭の多様化。アニメーションやSF等に特化した映画祭のはじまり
- 1960 カンヌ国際映画祭から「アヌシー国際アニメーション映画祭」が分離(フランス)
- 1962 日本のアニメーション賞の先駆け「大藤信郎賞」はじまる
- 1962 「日本SF大会」はじまる
- 1968 SF やホラーに特化した「シッチェス・カタロニア国際映画祭」はじまる。(スペイン)
▼1970年代
マンガや、デジタル分野のフェスティバルが始まる
- 1970 「コミック・コンベンション」はじまる(アメリカ)
- 1970 現代美術の国際見本市「アート・バーゼル」はじまる(スイス)
- 1972 「日本漫画家協会賞」はじまる
- 1974 CG関連の国際会議「SIGGRAPH」はじまる。(アメリカ)
- 1974 「アングレーム国際漫画祭」はじまる(フランス)
- 1975 同人誌即売会「コミックマーケット」はじまる
- 1976 「オタワ国際アニメーション映画祭」(カナダ)
- 1977 「第6回ドクメンタ」にビデオアート部門が設けられる(ドイツ)
- 1979 ブルックナー音楽祭の一環として「アルスエレクトロニカ」はじまる(オーストリア)
▼1980年代
ビデオアートや映像系のフェスティバルが世界中に広がる
- 1981 デジタルメディアのフェスティバル「IMAGINA」がはじまる(フランス)
- 1982 CG関連の論文コンテスト「NICOGRAPH」はじまる
- 1984 「ターナー賞」はじまる(イギリス)
- 1985 「東京国際映画祭」と「広島国際アニメーションフェスティバル」はじまる
- 1985 「つくば科学博」開催
- 1986 「European Media Art Festival」はじまる(ドイツ)
- 1986 デジタルコンテンツグランプリの前身である「AVA映像ソフト大賞」はじまる
- 1987 アルスエレクトロニカに「賞」が設けられる(オーストリア)
- 1988 ビデオアートフェスティバルとして「トランスメディアーレ」はじまる(ドイツ)
- 1989 民主化の流れでメディアアートビエンナーレ「WRO」はじまる(ポーランド)
- 1989 大阪大学や京都大学の学生らによって「CGアニメコンテスト」はじまる
▼1990年代
デジタル分野やポップカルチャーを対象にしたフェスティバルの増加
- 1990 「ArtFutura」はじまる(スペイン他)
- 1993 「国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト(IVRC)」はじまる
- 1994 音楽とメディアアートの祭典「Sonar」はじまる(スペイン他)
- 1994 「MERU国際コンピュータ・アートフェスティバル」はじまる(スロベニア)
- 1995 「学生CGコンテスト」はじまる
- 1995 「AMD Award」はじまる
- 1995 「光州ビエンナーレ」はじまる。アジア等でアートフェスティバルが増えていく
- 1995 「ソウル国際マンガ&アニメーションフェスティバル(SICAF)」はじまる(韓国)
- 1996 クリエイティブフェスティバル「Futuresonic」はじまる(イギリス)
- 1996 「東京ゲームショウ」はじまる
- 1997 「文化庁メディア芸術祭」はじまる
- 1997 「手塚治虫文化賞」はじまる
- 1997 「Electrofringe」はじまる(オーストラリア)
- 1998 電子芸術の国際会議「ISEA」はじまる
- 1999 「VIDA-アート&ALife国際アワード」はじまる(スペイン)
- 1999 「富川国際学生アニメーションフェスティバル」はじまる(韓国・富川)
▼2000年代
新しいタイプのフェスティバルが生まれ、世界中に広がります
- 2000 日本のポップカルチャーを対象にした「Japan Expo」はじまる(フランス)
- 2000 モスクワ国際映画祭の中に「Media Forum」がはじまる(ロシア)
- 2000 メディアアートのビエンナーレ「メディアシティー・ソウル」がはじまる(韓国)
- 2000 南米初のメディアアートフェスティバル「FILE」がはじまる(ブラジル)
- 2000 「越後妻有アートトリエンナーレ」はじまる
- 2001 「アカデミー賞」に長編アニメーション部門が新設される
- 2001 「横浜トリエンナーレ」はじまる
- 2002 「東京国際アニメフェア」や「GEISAI」がはじまる
- 2005 「Share Festival」はじまる(イタリア)
- 2005 「中国国際アニメ漫画フェスティバル」はじまる(中国・杭州)
- 2006 「STRP Festival」はじまる(オランダ)
- 2006 「日本アカデミー賞」にアニメーション作品賞が新設
- 2006 「アートフェア東京」はじまる
- 2007 震災からの文化的な復興を記念して「神戸ビエンナーレ」はじまる
- 2008 メディアアートのトリエンナーレ「Media Art China(媒体中国)」はじまる(中国)
- 2008 「中国国際動漫節」はじまる(中国・広州)
- 2009 「ESPACIO ENTER」はじまる(スペイン他)
- 2009 ロカルノ映画祭において日本のアニメやマンガを紹介する「Manga Impact」開催
- 2010 「瀬戸内国際芸術祭」「あいちトリエンナーレ」開催