[Works] Screaming My Foot by HAROSHI
September 20th, 2011 Published in こんな作品つくりました
色とりどりのストライプが鮮やかな、なめらかなフォルム。アーティストであるHAROSHIさん自身の足をモデルとして、制作された《Screaming My Foot》。
HAROSHIさんは、同様の素材で、足だけでなく手をモチーフにした《Screaming My Hand》も制作しています。このタイトルから、伝説的な存在のグラフィックアーティストJim Phillipsの代表作《Screaming Hand》を思い出した方がいれば、正解です。この作品は、氏へのオマージュでもあるということでした。では、Santa Cruz SkateboardsのアートディレクターであったJim Phillipsへのオマージュという点から、この素材を予想してみてください。そして、この作品は、Scream、まるで叫ぶように、激しくたたき割られたような形状をしていることもヒントです。これは、意図的に折られたわけではありません。使えば使うほど、使い手の技術が向上するほど、時に折れてしまう素材から作られています。断面を磨き上げると美しいストライプを描き出す、その素材とは・・・。HAROSHIさんのスタジオで、作品と制作についてお聞きしました。
「金属のアクセサリーを作る仕事を8年程していました。ルーペを使い小さなものばかり作っていたので、いつか大きいものを作りたいと思うと同時に、自分たちから発信出来る何かを作りたいとも考えていました。そして、木を素材にしてアクセサリーを作ろうかなと思っていたところに、スケートボードを素材にしてみたらとパートナーに言われたのです。」
HAROSHIさんは10代の頃からスケートボードに魅了され、長年接してきました。仕事を続けながらも仲間と日を置かず滑ることで、1カ月に1枚のペースで、使えなくなったスケートボード(デッキ)が部屋に溜まっていったそうです。スケーターにとって、デッキは完全に消耗品であるということですが、使えなくなったデッキも、HAROSHIさんは愛着から捨てられず、部屋に山積みになっていきました。スケートボードは乗るものだという先入観から、素材として捉える発想がなかったHAROSHIさんにとって、パートナーの言葉は、思いがけないアイディアでした。デッキを素材にしてアクセサリーの制作が始まります。そして、そのアクセサリーをよく見せるためのディスプレイとして作り始められたオブジェに注目が集まり、現在の活動に繋がることになります。
素材や制作期間について教えてください。
「新品のデッキを素材に作るということは、絶対にありません。それでは古くなったスケートボードをリサイクルして作品化するという自分のコンセプトと異なりますし、作品に意味がなくなってしまいます。デッキを作品の素材とするためには、まず表面にはられているデッキテープをはがしてクリーニングした後、全体にやすりをかけて、貼り合わせます。作品を彫り出せる塊を作ることから制作は始まります。この作品《Screaming My Foot》はすでに何度か制作していることもあって2~3週間ほどで制作出来ますが、作品よっては3カ月以上かかることもあります。」
— 大小様々な作品は、ウェブサイトでたっぷり見ることが出来ます。
多くの作品は、破たんのない形状をしていますが、このScreamingシリーズと《apple》には素材の折れた部分が生かされていますね。
「完璧な要素だけだと面白くないので、折れた要素を入れています。完璧ではない要素をいれてバランスを取っている感じですね。折れるというスケーターにとって予期せぬアクシデントを、そのまま作品に生かすということは、面白いアクセントになるのではないかと思い、取り入れました。しかも、スケーターの行為が暗示されるので、そこには物語が生じているように思います。この折れ目のような偶然性のある方が躍動感を生み出せるのではないかと感じています。」
素材は全てスケートボードであるわけですが、その塊を作る工程で、何かが使われていたり、入っていたりしますか?
「運慶(平安末期~鎌倉時代にかけて活躍した彫師)は、仏像などを彫った時に心月輪(シンガチリン)を入れていました。心月輪は、仏の魂を意味する水晶玉で、魂を埋め込んで初めて彫刻は完成するという考え方を持っているそうです。これは、現代になって仏像をX線で撮影したことから分かったそうなんですが、面白いなと思いました。ですので、作品の中に、壊れたスケートボードのパーツを入れてみたりしています。人には見えない何かが、中に入っている状況がミステリアスで面白いなと思っています。」
現在、自身がアーティストであるという意識はありますか?
「昔は、アーティストという響きが凄く嫌いでした。僕の場合は、アクセサリーをよく見せるためのディスプレイとして作ったオブジェが評価され始めて、いつしか、オブジェが単独で売れるようになり、オーダーが来て、気がついたらアーティストと言われるようになっていました。それまではアーティストという意識よりも、職人として作業している感覚でした。でも今でも作業は変わることなく、非常に細かく詰めたものを作っています。執拗に細かいところまできちんと作り込むことが、日本人っぽいところだと思っていて、日本の職人として恥ずかしくないものを作ろうと思っています。」
日本ではなく、海外で積極的に作品を紹介していますね。
「初めて発表したベルリンでのオーディエンスの反応は、今まで作品を見ていた人たちの反応とあまりに違うぞと感じました。『うわー!なんだこりゃ!』というこちらにも伝わってくる驚きの反応を目の当たりにして、海外での発表が向いているかもしれないという意識が生まれました。」
— その後、日本、マレーシアと作品を発表し、今年4月のニューヨークでの個展は大盛況だったとお聞きしました。
アメリカで評価されている状況に関して感じることはありますか?
「特定の誰かに向けている意識はないですね。単純に自分の作りたいものを作って、いいと言ってくれる人がいたのが海外だったということです。日本のアート界とアメリカのアート界は全く別物だと感じています。そもそもアートと言っている感覚が異なると思います。日本でのアートは、どうしても美術館とか、学術的に捉えている人達の世界のように感じています。僕らが制作しているものは、日本のアート界には、全く属していないし、紹介されることもありませんが、アメリカではアートとして捉えられているので、評価してもらえるのではないでしょうか。」
— 1960年代のポップアートの時代以降、アートをハイカルチャーとするのであれば、その下に位置付けられる映画や大衆文化といったサブカルチャーがアートの文脈に入り込み様々に混じり合ってきました。そのカテゴリーを踏襲するのであれば、ストリートから生まれる表現は、サブカルチャーと捉えることが出来ます。
スケートボードを素材にしていることからストリートカルチャーとの繋がりを感じさせる作品を制作するHAROSHIさんですが、その文脈や関わりに関して、どのような意識を持っていますか?
「スケートボードにまつわるカルチャーは、ストリートと言われたり、ローブローと言われたりして、アート界ではまだ一線が引かれています。これからもっとアートに取り入れられたり、混じり合うんじゃないかなという気がします。でも正直、個人的には、そもそもストリートのようなカテゴライズは意味がないように思っています。よくわかんないなとも思って。何がアートかなんて誰にもわかんないじゃないですか。僕の作品は、ストリートと言われることもありますが、そう言われると、最近ではこんなに細かく張りつめた仕事がストリートって言えるのか?といった疑問を感じたりします。スケートボードを素材にしているという点で、ストリートカルチャーに繋がりはありますが、作品自体がストリートカルチャーである意識は全くないですね。むしろ工芸だと思います。」
作品の魅力を聞かれたら、どのように答えますか?
「スケートボードは見たことあるけど、僕の作品のように変化したスケートボードは見たことがないですよね。だから面白いんじゃないですか。前に誰かがやっていることをやることは意味がないと思っています。単純に誰もやったことがないことをやってやろうと思います。」
— 今後は拠点をアメリカ西海岸に移し、スケートボード文化発祥の地で、そのカルチャーの中心にいる人たちとのプロジェクトに意欲を見せるHAROSHIさん。そんな中で、ちらりと見せる素直なコンセプトは、明確です。大好きなスケートボードに関わっていくこと。
「スケートボードに特化しすぎていて、自分の表現の幅を狭めていないかと聞かれたりしますけど、僕は単純にスケボーが好きだからスケボーで好きなモチーフを作ってるだけで、無理して身の丈に合わないことはしないようにしているだけですね。」
9月16日からアメリカ・ダラスでは世界で注目のアーティストが集まる展覧会「RE:DEFINE」が始まりました。これは、展示作品がオークションで競売されるユニークな形式の展覧会で、売上はすべてAIDSの治療や教育に活用されるということです。The Future TenseのキュレーションによりHAROSHIさんを含む30名が選ばれていますが、その中には、世界的アーティストのダミアン・ハーストやトレイシー・エミンも含まれているので注目です。
世界を標準に活動を始めたHAROSHIさん。その作品の魅力は、カテゴリーや既存の価値観を超えて、益々ファンを増やしながら、世界に広がりそうです。楽しみな新作は、日本でも紹介されるのでしょうか?そんな機会が増えることを願います。
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HAROSHI(ハロシ)
1978年生まれ。東京在住(2011年現在)。10代からスケートボードを始め、自身も熱心なスケーターとして活動する過程で、スケートボードの仕組を熟知することになる。壊れてしまったスケートボードをリサイクルし、素材として作品化、木製の彫刻作品を手掛ける。2011年4月にはニューヨークJonathan LeVine Galleryにてアメリカで初めての個展を開催。最近では、NIKE のCEO Mark Parkerからのコミッションワーク《DUNK》を発表。