[レビュー] 文化庁メディア芸術祭宮崎展
December 25th, 2011 Published in レビュー&コラム
第15回文化庁メディア芸術祭の受賞作品が発表された。国立新美術館では、2月に恒例の受賞作品展が開催される。年々の来場者の増加は、その注目度も年を追うごとに増している表れだろう。この文化庁メディア芸術祭は今年、京都と宮崎でも開催される。宮崎展は遊び心溢れるコピー「メディアソビ、ムゲンダイ。」を掲げ、12月23日から始まった。
今回、メイン会場となるのは、2年前に開館したばかりのみやざきアートセンターだ。宮崎市の中心地、橘通りに面したアートセンターの3,4,5階の3フロアーを使用し、たっぷりの空間を使って作品が丁寧に紹介される。
5階で鑑賞者を初めに迎えるのは、クワクボリョウタさんの《10番目の感傷(点・線・面)》だ。子供であればその「影」の創り出す空間に夢中になり、大人であれば「影」だけで遊んでいた時代の記憶がジンワリと蘇ってくるエモーショナルな作品。世代を問わず、多くの鑑賞者がすっかり作品の虜になってしまう。
そして、その隣の展示室には、唯一の海外作家による作品、Peter KNEES / Tim POHLE / Gerhard WIDMERの《sound / tracks》が紹介される。ピアノが演奏しているのは、電車の車窓からの風景をリアルタイムで解析しながら作りだされる楽曲である。今回は、オーストリアのリンツから制作者のPeter KNEESさんとアシスタントのAndreas ARZTさんが来日した。短い滞在期間の丸一日を使って宮崎・日南線からの車窓を撮影、宮崎バージョンが公開される。
Peterさんに今回のバーションのことを聞いてみた。「ローカルの電車で、海岸線とやしの木も見ながらの旅は自分にとって貴重で新しい経験です。オーストリアには海がありませんから景色が全く違います。再び来日して、宮崎に来れたことを嬉しく思います。」現在、アプリケーションの制作も進んでいるという。
同階には強烈なインパクトを与えるパフォーマンス作品《Braun Tube Jazz Band》も展示される。7月15日にアナログ放送は終了し、不要になってしまったブラウン管テレビが楽器に生まれ変わり、和田永さんのパフォーマンスによって時に幻想的で時に躍動的な音を発する。すでに世界中で披露され、多くの観客を魅了してきたパフォーマンスは1月8日、9日に予定されている。
となりの展示空間にはplaplaxさんの《hanahanahana》が紹介されている。円形につられた大型スクリーンに、香りによるインタラクションが華やかに巻き起こる。花に香りを近付けると花弁が色とりどりに膨らみ幻想的な空間に包み込まれる。
モンノカヅエさん、ナガタタケシさんによる《ピカピカ》の映像作品も同室に展示されている。オープニングでは、参加型のパフォーマンスを披露したお二人。参加者の歓声が沸く楽しい一時は、同展のオープニングにふさわしい一幕となった。4階にも展示は続き、アニメーションシアターとエンターテインメント部門からの体験型の作品がならぶ。
作品はアートセンターだけでなく、近隣の商店街の中にも展示されている。センターからほど近い若草通り。この商店街の閉店してしまった靴屋を会場に上映されるのは田村友一郎さんの《NIGHT LESS》だ。 自身は一切撮影をせず、webサイト上のgoogleストリートビューに公開されている画像をつなぎ合わせているためNIGHT LESS=夜がない映像作品となっている。ストーリーのないはずの情報のための画像がつなぎ合わされて尺をもつ映像となり、そこにナレーションが加わることで、言いようもない虚無感・不安感を感じさせる。こちらも、今回の展示会場に合わせたバージョンとなってることも加えて、田村さん曰く「過去最高の仕上がりに近い環境での上映かもしれません。」というから見逃せない。
みやざきアートセンターでは昨年、メディア芸術を紹介する小規模な展示を行ったというが、これほどの規模での展示、作品紹介は今回が初めてとなる。担当の青井美保さんは、実際に岡山や東京のメディア芸術祭に足を運び自ら作品選定をしたという。今回の宮崎展に関してのメッセージを頂いた。
「今回、展覧会に普段いらっしゃることのない方たちまでも、身近に感じて楽しめることがメディア芸術のひとつの大きな強みであると感じました。このような機会を通じて、宮崎・九州に新しい風を吹き込めたら大変嬉しく思います。」
そして、みやざきアートセンターのセンター長である石田達也さんにもコメントを頂いた。
「国内外で高い評価を得たメディアアート作品を、これだけ一堂に集め鑑賞する『場』を地方でやれる機会はそう滅多にないと思いま す。内容も含め『今後の地方展の方向性を示す基準にしよ う』とスタッフ一堂頑張って準備してきた成果を是非お楽しみください。」
始まったばかりの文化庁メディア芸術祭宮崎展。現地入りした参加作家が口を揃えていたのが、その溢れるホスピタリティーと展示施工のクオリティーの高さだ。
このセンターは、人が気軽に集える交流サロンや、キッズルーム、プレイルームを備えており、すでに人が集うポテンシャルを秘めた施設だ。そこに今回、親しみやすさを重点に選ばれたメディア芸術の作品群が集結する。そして町に点在する展示会場。
「まちと人とメディアアートが今後いかにしてつながっていく可能性があるかを模索する絶好の機会」としての試みは、2週間という会期を経て、有意義に実現するのではないだろうか。新しい感動や体験を提供する作品群を好奇心いっぱいで受け止め、街ぐるみで楽しんでもらいたいと思う。実は、今回選ばれた作品は、分かりやすく楽しめるというだけでなく、世界的に高い評価を受けている作品が多い。近郊であれば是非足を運んで、この貴重な機会を見逃さないでほしい。
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文化庁メディア芸術祭宮崎展
http://miyazaki-ac.com/media/
日 程
平成23年12月23日(金)~平成24年1月9日(月)
午前10時~午後6時 (金・土曜日は午後7時まで)
※入場は終了の30分前まで
※平成23年12月29日(木)~平成24年1月2日(月)までは年末年始休館
会 場
みやざきアートセンター(入口5階)・宮崎キネマ館・1番街・若草通(一部店舗)
入場料 無料
主 催 文化庁
共 催 みやざきアートセンター
協 力 文化庁メディア芸術祭宮崎展受入実行委員会、オーストリア大使館、CG-ARTS協会、ヤマハ株式会社、株式会社NTTドコモ
協 賛 宮崎市
後 援 宮崎県、宮崎県教育委員会、宮崎市教育委員会、宮崎県市町村教育委員会連合会、宮崎県校長会、宮崎県県立学校長協会、宮崎商工会議所、Doまんな かモール委員会、宮崎日日新聞社、朝日新聞社、毎日新聞社、読売新聞西部本社、日本経済新聞社宮崎支局、NHK宮崎放送局、MRT宮崎放送、UMKテレビ 宮崎