[インタビュー] 《銀河鉄道999》の思い出 – 豪からのレジデンス作家 Arlo Mountford
May 21st, 2012 Published in インタビュー
オーストラリア・カウンシル[*]によるアーティスト・イン・レジデンスプログラム「オーストラリア・カウンシル VAB (Visual Arts Board)東京スタジオ」の招へいで、東京スタジオに4月半ばまで滞在していたArlo Mountford氏。インスタレーション作品や近現代美術の文脈をモチーフにしたアニメーションを制作している彼に、今回日本に滞在することになったきっかけや、最近の作品についてお聞きした。
日本でのレジデンス・プログラムに応募した理由を教えてください。
まず最初に、このレジデンス・プログラムが私の中の「オタク」的な気質をくすぐりました。僕は多くの人と同じように、土曜日の朝や放課後に日本のアニメの吹替版をテレビで見ながら育ったんです。でも決してそれだけではなく、第二次世界大戦後のみならず明治期から先進工業国として日本が遂げてきた飛躍的な発展に興味を持っていました。
こうした発展と軌を一にするように戦後日本にはマンガとアニメの開花がありましたが、私はこれら2つの関係性にも興味がありました。そして、それらについて検索している時に、偶然にもYouTubeで英語字幕版の《銀河鉄道999》を目にしたんです。最初はこの作品が《銀河鉄道999》だと分からなかったんですが、後になって、子供の頃に祖母の家でテレビにかじりついて見ていたことを思い出しました。そして、さらに検索を進めると、1980年代には、有名なB級映画プロデューサーのロジャー・コーマンによって日本のアニメのキャラクター名やストーリーが改変されて、しかもひどい編集が入った英語吹替版が、欧米の視聴者に向けて流されていたのだと分かりました。日本の文化が欧米に入ってくる際にかけられていたフィルターが僕の中でなくなり、先に話したアニメとマンガの関係性への探求心も重なって、日本での滞在の決めました。
大学を出てからしばらくの間はインスタレーション作品を中心に制作されていますが、さらにアニメーション作品の制作も行なうようになった理由は何ですか?
これまで概念的な枠組みとして美術史を参照ながらインスタレーション作品を制作してきたのですが、それをさらに押し進めながら美術史的な文脈を強調する手段としてアニメーション作品の制作も行なうようになりました。また、スタジオの規模が大きく変わったという理由もあり、アニメーション作品にフォーカスするようになりました。
最近のインスタレーション作品としては、2011年にNick Selenitschとコラボレーションした《Movements》があります。これは2つの作品で構成されていて、出来事や動きの中に人間的な特性を見いだすという人間による直観的な「擬人化」をテーマに取り上げています。テーブルの作品《Work #1》は、テーブル上に数百の画鋲がばらまかれていて、鑑賞者が作品に近づくとモーションセンサーがテーブル下の磁石を回転させ、何もしていないのにテーブル上の画鋲がクルクルと動き回るような印象を与える作品です。2つめの《Work #2》は、ギャラリーの壁面に沿って設置されたレールの上を剛球が転がり、最後にはギャラリーのバックヤードにある小さな部屋に転がり落ちるという作品です。剛球は8時間ごとに放たれるようになっていますが、これは展示されている地域と関係したサイト・スペシフィックな作品なんです。というのもこの作品が展示されているRMITプロジェクト・スペースから数百メートルの場所に、メルボルンの労働組合が設置した1日8時間労働のための小さなモニュメントがあり、この作品はそのモニュメントや場所の意味性との連関を示しているんです。
アニメーション作品『Return to Point』では、トム・ウェッセルマン、ブルース・ナウマンの作品やヨーゼフ・ボイスのエピソードなど、現代美術的なモチーフが描かれています。こうした美術史的なモチーフを表現に取り入れている理由は何でしょうか?
私のアニメーション作品では、トイレの男性と女性のサインや、道路標識などをベースにした図像を繰り返し用いています。この《Return to Point》では、冒頭部部に現代美術のモチーフを用いて、20世紀という時代を代表するシンボルが次から次へと変化する状況を表しています。あるアイデアから別のアイデアへ移動しつつ、それらさまざまな事象がつながる様を描いたら興味深いと思って、年代やヒエラルキーを考慮せずに美術史からモチーフを借用し、それらの形態に焦点を当てたんです。
2011年には、アントワーヌ・ヴァトーの作品をモチーフにしたアニメーションによるインスタレーション作品を制作なさっていますが、作品について教えていただけますか?
美術学校の生徒だった時から、ジャン=アントワーヌ・ヴァトーの《シテール島への巡礼》に興味を持っていました。入学した最初の年にヴァトーの作品に関する短い発表をしなければならなかったんです。私はこの絵画で展開されている情景が、子供の頃に学内のそこかしこで繰り広げられているようなロマンスを想起させるものだと説明しようとしました。毎日違ったガールフレンドやボーイフレンドができても、こうした軽い行動の結果に対して誰も気に留めないようなロマンスです。でもクラスメイトからは「誰もがそのようなロマンスに恵まれた幼年時代があった訳ではない」とか「それがヴァトーの意図したかったことであるはずがない」と強い反発を受けました。その後、2010年に《Don’t bite the horses mouth where you eat, my friend》というビデオ・インスタレーション作品でこの時の話をアレンジしたのですが、ここではロココ時代のフランス貴族の過剰性からフランス革命へといたる社会のあり方を呈示したんです。
そして翌年にヴァトーの《シテール島への巡礼》を元にしたアニメーション作品《The Lament》で、鑑賞者がこの絵画空間を体験できるような雰囲気と環境を作り出しました。オルダス・ハクスレーの小説『島』を参照しつつ、天使が円を描いて宙を舞いながら恋人たちにつぶやく情景を、シンプルな2次元アニメーションで表現したんです。
この絵画には2つのバージョンがあります。最初に描かれた作品が1717年で、2つ目が1719-1721年の作品です。私はこの2つ目のバージョンを水平方向に反転させて、1つ目のバージョンと鏡映関係に据え付けて、アニメーションで展開する画面の中央に小さな島を描き加えました。この絵画については、画中の人物が到着したところなのか、出発するところなのか、つまり愛の島に旅立とうとしているのか、立ち去ろうとしている愛の終わりを描いているのかという議論が長い間なされてきました。そこで、私はこれら2つのバージョンを鏡映関係に据え付けることによって、人物が左側から到着し、2つの絵画の境界を越えて、右側に向かって旅立ち、数分後にはまた左側から現れて同じ行為を繰り返すアニメーションのインスタレーションを作りました。
今後の活動について教えてください。
今、二つのアニメーション作品を手がけています。一つ目は酔っぱらってばかなまねをする人たちの映像がYouTubeにあるのですが、そのアニメーションバージョンをシリーズで制作し、これは今年の後半にメルボルンで展示する予定です。そして2つ目はまだ構想段階ですが、《銀河鉄道999》と日本のモダニズム建築についてのアニメーションを作ろうと考えています。
Arlo Mountford
1978年イギリス生まれ。1983年にオーストラリアに移り、Victorian College of the Artsで美術を学ぶ。現在もメルボルンを拠点に活動している。サウンド、ビデオ、アニメーションを組み合わせた大規模なインタラクティブ・インスタレーションを中心に制作している。ここ数年、数多くのアニメーション作品の制作を手がけており、キャラクター自身が置かれている環境や状況さらには存在自身をも再解釈しようとして、美術史上の出来事や既存の作品を取り上げ、アイデアの再解釈を試みている。 http://www.arlomountford.com
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[*]オーストラリア・カウンシルはオーストラリア連邦政府の機関で、「オーストラリア・カウンシル VAB東京スタジオ」というレジデンス・プログラムを実施している。対象となる分野は、美術、工芸、映像、彫刻、デザインのほか、ビジュアル・アート、メディア・アートが含まれている。毎年オーストラリアから4名のアーティストを公募で招聘し、渡航費、滞在費を助成するとともに、制作のためのサポートスタッフ制度も設けられており、1回につき3ヶ月ほど日本に滞在して、見聞を広める機会が与えられている。年齢制限はないが、アーティストの作品が高い評価を受けていることと、アーティストの今後のキャリアにおいて、本レジデンシーが有効だとみなされることが条件となっている。
参照URL
・オーストラリア・カウンシル VAB東京スタジオ http://air-j.info/result/center_13104
・AIR_J(日本全国のアーティスト・イン・レジデンス総合データベース) http://air-j.info/
・オーストラリア・カウンシル(英語) http://www.australiacouncil.gov.au/
取材協力:オーストラリア大使館