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石垣市文化観光シンポジウムレポート 〜南の島ならではの創造都市を目指して〜

January 31st, 2017 Published in レビュー&コラム

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文化芸術を活かした産業振興や地域活性化が盛んだ。1995年に「欧州文化首都」が始まり、2004年にはユネスコの「創造都市ネットワーク」が開始。文学、映画、音楽、工芸、デザイン、芸術、メディアアーツ、食文化の7分野で「クリエイティブ・シティ」が世界中の都市から選ばれている。メディアアーツがあるのが意外かもしれないが、選ばれている都市を見てみると現代美術としてのメディアアートだけではなく、もっと広い範囲が対象である。

日本においては、文化庁長官表彰に「文化芸術創造都市部門」が2007年に設けられ、2013年に年には創造都市の取組を推進する「創造都市ネットワーク日本(CCNJ)」が設立されている。
地方自治体が中心となって開催している「芸術祭」が増えているのもこの流れの中にあるのかもしれない。全国各地に文化芸術を地域活性化につなげようという動きが起こっているようだ。

日本最南端の都市と言われている石垣島においても文化芸術に関して様々な取り組みが行われているが、2017年1月14日には「石垣市文化観光シンポジウム」がANAインターコンチネンタル石垣リゾートで開催された。

シンポジウムは、建築家の隈研吾氏による特別講演「島の文化と魅力の創出」と、中山義隆氏(石垣市長)と谷口正和氏(ジャパンライフデザインシステムズ代表取締役)、佐々木雅幸氏(文化庁文化芸術創造都市振興室長)、平田大一氏(沖縄県文化振興会理事長)、岡田智博氏(クリエイティブクラスター代表)、隈氏によるパネルディスカッション「文化観光都市ISHIGAKI2020 東京オリパラに向けて」の2部構成であった。以下、各氏の発言を要約する。

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<発言要約>
中山義隆氏(石垣市長)
・2016年の観光客数120万人突破が確実。
・今年もクルーズ船の寄港が史上最高に。航空路線の拡充、機材の大型化も見込まれる。
・石垣の最大の魅力である自然、伝統的な文化を育み、継承していきたい。
・市政70周年を記念して、石垣市役所の新庁舎が隈研吾氏によって設計される。
・石垣市が「創造都市ネットワーク日本(CCNJ)」へ加盟する。沖縄県初。
・石垣市は台湾や県外からも移住者が非常に多く合衆国のような地域。
・石垣で守るべきものを守りながら、移住者の視点で再発見すれば良いものが生まれるのでは。
・2020年、東京だけでなく隈さん設計の新市庁舎で石垣市も一緒に注目されたい。
・ドイツ陸上競技連盟のナショナルチームの合宿を誘致している。
・足元に光る宝を発見し、大切に継承していきたい。
・東京オリパラに向けて取り組むべき道筋を示し、文化観光都市をつくりたい。

隈研吾氏(隈研吾建築都市設計事務所主宰/東京大学教授)
・北上川運河交流館 水の洞窟、竹屋、新国立競技場など、自身が手がけてきた建築を紹介。
・いずれの建築に共通するのは、地域の特性や、地域の素材を活かすこと。
・旧空港跡地に作られる石垣市の新市庁舎も同様。石垣の個性が引き立つものにしたい。
・市役所は市民だけでなく、観光客も遊びに来るような場所であるべき。
・世界を見ても、中心(都市部)ではなく、毒されてない周辺(地方)が面白い。
・石垣市は新しい核になる可能性がある。石垣らしさを出すべき。
・中の人は気づいていなくても、外の人が見ると新鮮に見える。その視線をどう活かすか。
・歴史ある古いものは理想的な形では残っていない。痕跡から磨き上げて創り上げていく。
・伝統や歴史はこれから作っていくもの。諦めたらそこで終わる。
・台湾人は石垣島が好き。石垣と台湾で一緒にやると面白い。

佐々木雅幸氏(文化庁文化芸術創造都市振興室長/同志社大学教授)
・ユネスコの「世界遺産」は過去が対象。これも重要なこと。
・それに対して「創造都市ネットワーク」は現在が対象であり、未来に向けての施策。
・ユネスコ「創造都市ネットワーク」には54カ国116都市が加盟。
・神戸市、名古屋市、金沢市、札幌市、鶴岡市、浜松市、篠山市の7都市が認定されている。
・もはや製造業で雇用を増やす時代ではない。
・これからは、小さくても新しくクリエイティブな仕事を増やすことが重要。
・マスツーリズムからカルチャーツーリズム、さらにはクリエイティブツーリズムへ変化すべき。
・地元のアーティスト、クリエーターとツーリストをつなげる人の役割が重要。
・人と人をつなげる活動はNPOがやりやすい。

岡田智博氏(クリエイティブクラスター代表)
・石垣市はすでに創造都市である。
・見せるだけで終わりがちな他の地域よりも進んでいる。
・創造都市ネットワーク日本への加盟によって認知度が高まることが期待される。
・認知度が上がればさらにつながりが生まれ、地元が触発されてより良いものづくりに。
・サードプレイスとして集える場が想定されている新市庁舎にポテンシャルを感じる。
・文化を通じた体験は、地域を強くする受け皿としても有益なものになるだろう。
・クリエイティブにも地産地消が重要。
・石垣は地元から生まれたクリエイティブをビジネスにする他には例のない動きがある。

平田大一氏((財)沖縄県文化振興会理事長/沖縄「文化プログラム」基本方針検討委員会委員)
・植物は塩に弱いが、淡水と海水の混ざる場所にあるマングローブは生命力が強い。
・石垣島は外から来ている人が多いので、文化の生命力も強い。
・文化をただ産業化するのではなく、感動産業(感動体験型産業)にするべき。
・沖縄は2020年に向けてパラリンピックに特化した文化プログラムを誘致した方がいい。
・障がい者にもやさしいハードインフラが残るし、地元の子どもの引き出しも増える。
・パラリンピックはもともと障害を負った米軍帰還兵の更生プログラムでもあった。
・沖縄には米軍基地が多くあるので平和的使命も担える。

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石垣に行くまでは正直なところ疑心暗鬼の気持ちもあった。豊かな自然が残り、独自の積み重ねられた歴史や文化もあるのに、地域振興と言いながら東京の文化を持ち込むだけではないかと。その気持ちは空港からのバスから見えるフランチャイズの店や大資本のスーパーなどでますます強くなった。

しかしシンポジウムで語られたのは、いずれも石垣の歴史や文化を活かすことや、その上で文化観光をどのように発展させていくかということであったように思う。

中心地から少し離れれば、素晴らしい自然が広がる。そもそも都会にないものを求めるのは都会暮らしの勝手な要望なのだろう。また、石垣の魅力は西表島や竹富島、黒島などの離島にも気軽に行くことが出来る。利便性の高い石垣を拠点にして島々を巡るのは楽しそうだ。石垣はインフラも整っていて利便性も高いけれども、自然を通した貴重な体験ができるので、アーティストやクリエイターの移住も増えているのではないだろうか。世界的に見てもこの稀有な自然を活かすことが創造都市として成功させるポイントだろう。

石垣ならではのクリエイティブ・アイランドを目指して欲しい。

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