学生CGコンテストの評価員賞とナレッジ賞も決定!
November 20th, 2014 Published in チャンネルD
第20回学生CGコンテストの評価員賞とナレッジ賞が11月20日に決定した。
すでに最優秀賞、優秀賞、審査員賞は11月6日に発表されているが、評価員賞はノミネート作品を選出した8人の評価員が最も推したい作品に贈られる賞である。個別に選定されたにも関わらず重複はなく、あらためて評価の多様性を示す結果となった。 また、CG-ARTS協会の検定合格者の作品に贈られるナレッジ賞も決定した。
評価員賞
『いっしょに!おえかきおねいさん』平本 瑞季 ※谷口 暁彦評価員が選定
共同制作者:田中 真琴、箱田 果歩、佐藤 萌子、清原 惟、野中 美穂、若林 あすみ、西 夏央、須藤 光、藤原 由智、川田 歩、大森 緩子、正村 崇
作者は小さい頃に教育テレビで見た、「うたのおねえさん」に憧れ、作品の中で自らその「おねえさん」に扮して登場する。そこで作者は、そのまま「うたのおねえさん」になるのではなく、「おえかきのおねえさん」になり、表記も「おね”え”さん」ではなく、「おね”い”さん」とし、意図的にズレを設定している。
このズレは、憧れていた「うたのおねえさん」になりきれず、作者らの「いつもの日常」がだらしなく浸食してきてしまう、理想/フィクションと現実のズレのことでもある。「おえかきおねいさん」の役割を果たそうとする作者の「おねいさん」と、それと裏腹に低いテンションで自由気ままにふるまう「タナカ」というキャラクターもまた、このズレを作るために要請されたキャラクターなのだろう。
この二人のやりとりは、おそらく細かい台本が無く、アドリブ的、事故的でスリリングだし、だんだんと絵を描く事がただの作業になり、「おねいさん」と「タナカ」が無言で手を動かすようになっていっても、ただ映像として映っているだけで、何かの意味や結論に帰着させない感じがいい。
また、馬の絵を描くシーンでは、映像の撮影と同時に写真の撮影を行ったようで、そのシャッター音が聴こえてきたり、「タナカ」が馬の尻尾を紙の真ん中に描きだしたところで撮影しているカメラマンのツッコミが聴こえる。こうした画面外のフィクションではない出来事が入り込んでくることで、画面内でのフィクションにならなさ=グダグダ感がより強調されていく。そうしたズレを内包、あるいはその侵入を許容しつつも、そのズレに対して悲観的になるわけでもなく、ただただ流れ込んでくるその日常のグダグダ感を受け入れて、安易な物語に落とし込まない姿勢が徹底しているのだと思う。(谷口 暁彦)
『正太郎』前田 結歌 ※土居 伸彰評価員が選定
現在、ドットの集積は、すでにじゅうぶんに人間としてみなされる資格をもっている。人間として名指すことができるものの範囲は、今まで考えられていたよりもかなり広がっている。逆に、人間自身は地位の低下を蒙っているのかもしれない。たとえばアイドルは人間なのだろうか?それはドットの集積、人の欲望に基づいて恣意的に集められたものと、何が違うんだろうか。たぶん何も違わないから、動いたり変わったりする現実の人間はもういらない。ドットの集積の世界で全ては事足りる。この作者の作品に漂う、絶対的に静止した時間の感覚が、その思いを確信に変えてくれる。(土居 伸彰)
『だつお個展』だつお ※馬 定延評価員が選定
http://datsuo.com/datsuokoten01.html
去年の第19回学生CGコンテストに応募された《孵化日記》のことを、私はずっと引きずってきました。萩原俊矢さんが評価員賞を与え、渡邉朋也さんと土居伸彰さんが心を打つ言葉を与えたこの不思議な作品について、本人に会い、《孵化日記II》を見た、あの日まで、愚かな私は確信を持てなかったのです。しかし、その後、私のなかには、スミナガシの幼虫を探しに山のなかを迷うあの子の時間が、朝露にぬれた青い葉みたいに、瑞々しく輝いています。これからも一生、その時間を忘れることはでないでしょう。そして、忘れないでほしいのです。たとえそれが、だつおワルードの片鱗にすぎないとしても。(馬 定延)
『市澤さんにバツの話を聞く』山内 祥太 ※渡邉 朋也評価員が選定
奇跡が生まれるバランスについて教えてくれる作品だ。謎のバツ印そのものと、それに関わるあらゆる要素・人間たちとのあいだの距離感が、あまりにも絶妙すぎて、いい意味でエアポケットに落ちている。何気ない日常を過ごしているだけでも、ときおりこんなふうな奇跡が起こってしまうことがありえるのだと勇気が出る。別にそれをあえてしようと思わなくても、知らないうちに、そういうことをしてしまっていて、もしくはなってしまっていて、そして(これはかなり大事なことなのだが)それを発見できる人がいるんだ、という事実が頼もしい。世界にまだ秘境は生まれうるのだ。(土居伸彰)
もしもし、あの作品見た?どうだった?(笑)私はね、日常の隅々まで届いている作者の暖かい目線と、市澤さんの文法無用の愛おしさに(笑)、なんと言うか、心の温度が1度上がっちゃったの。ねぇ、本当に素敵なことだと思わない?私たちの世界はこのような小さくてやさしいコミュニケーションに満ちているの。そう、バツは関係ないのよ。そう、バツは何でもないの。(馬 定延)
『てあらいかがみ』木原 共 ※上田 キミヒロ評価員が選定
共同制作者:竹内 祐太、西原 英里、松井 克文、加藤 雄大、伊藤 航
液晶画面内での文字、グラフィックの表現が、デジタルサイネージとしての正しい方向性を感じます。アートとしての作品は実用性がとぼしくつまらない物が多い中、製品としての価値を感じさせてくれる、いい意味で実用的な作品です。年少者が利用するような、図書館等の施設に実際に設置されていてもおかしくないクオリティをもっており、見た目の解りやすさや雰囲気ともあいまって、テクノロジーをうまくアートと融合した好例だと感じました。(上田 キミヒロ)
『overture』平田 裕貴 ※小村 一生評価員が選定
共同制作者:中林 達希、上地 冬馬、八木 亮輔、森 一真、伊藤 一樹、福嶋 拓也、
西田 七海、上中 千布実
粒子を誘導して、標的の粒子を取り込み仲間の粒子を拡大し標的の粒子を殲滅する事が目的のゲームです。シンプルな見た目ですが、アイディアと演出が素晴らしい作品です。出来る事は粒子の集中と拡散の2種類のみですが、集中する点を繋げる事によりある程度意図的に誘導できるようになります。標的粒子の動きや弱点を晒すタイミングなども良く考えられているので理不尽な所が一切無く、偶然に頼らずしっかりとした攻略方法を考える事ができる大人なゲームでした。最終面はとても時間がかかりましたが、自粒子が全滅直前からでも復帰できるゲームバランスはとても心地良かったです。(小村 一生)
『アオハルは突然に…』三浦 光理 ※谷口充大評価員が選定
少女マンガの「曲がり角で異性にぶつかる」という王道シチュエーションに感化されたメスのインドハナガエルが、出会いを求めて西インドの密林へと飛び出していく……。これがこの作品のあらすじなのだが、こうして振り返ると意味不明すぎて「頭がフットーしそうだよおっっ!」
西インドの山奥にどうやって日本の少女マンガが流れ着いたのだろうか。そもそもカエルはマンガを理解できるのだろうか。これ以上は長くなるから省くけれども、こうして次から次へと湧き上がる疑問に対して、それをねじ伏せるだけの高度な技術と圧倒的なくだらなさがこの作品には同居している。
そして、カエルが読んだマンガには無い、一歩踏み込んだ関係へと肉薄するラストシーンには、「予感程度で充足するな」「男子は積極的に喰らいついて行け」という、世の草食系男子へ向けた鼓舞、あるいは延々と待たされる女子の苛立ちのようなものを感じ、こちらとしては反省させられる思いであった。(渡邉 朋也)
下手な展開のマンガをハ虫類が読んだらどうなるか。やたらとリアリティのあるハ虫類のCGと、あえてベタベタを狙った少女マンガのシーンの対比が面白いです。映像作品としては後半の演出やオチにもう一工夫、CG部分にもう少し「汚し」の加筆があると、さらによくなったと思います。(上田キミヒロ)
『なまずは海に還る』 岩瀬 夏緒里 ※堀口 広太郎評価員が選定
とにかく完成度が高いです。ここまでの作品が作られたことに脱帽します。影を強調した絵作りや、川辺の風景には懐かさがあり、哀愁のある世界観が美しいです。「少年」と「病床のじいさま」関係性、「川」から「海」にかえる「なまず」のストーリーは人の営みの静かな揺らぎを、どこかの民話のように物語っていると作品だと思いました。静かな作風ですがメリハリもあり、しっかりと心に響きました。(堀口 広太郎)
ナレッジ賞
『紙しらべ』春木 葵
共同制作者:田中 智浩、上林 俊貴、山口 純平、不老 りさ
斬新なアイディアのゲームだと思います。誰もが一度は遊んだ事のある「折り紙」をモチーフに組み上げられるゲームは、どこか懐かしい感じもありながら全く新しいパズルとして頭の中のこれまにで使った事の無い部分を使わせる体験をさせてくれました。和をテーマに統一されたデザインもとても雰囲気があり、作品のコンセプトに綺麗に合致していて違和感無く馴染んでおり素晴らしかったです。非常に完成度の高い作品だと思いました。作者の今後に期待しています。(小村 一生)
第20回学生CGコンテスト公式ウェブサイト
http://campusgenius.jp/2014/
学生CGコンテスト最終審査会レポート、20回目の記念すべき最優秀賞はこうして決まった!
https://dep-art-ure.jp/?p=8766