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[Works] バインド・ドライブ 佐藤雅晴

August 17th, 2011 Published in こんな作品つくりました

1日12時間以上、フォトショップとペンタブレットを使ってひたすら精密な描画を続け、そして写真と見紛うばかりの平面作品や、延々とループするアニメーションを生み出すアーティストの佐藤雅晴さん。その作品から滲み出る不可解な違和感。その違和感の理由を探していると、いつの間にか作品に引き込まれてしまいます。

今回とりあげる《バインド・ドライブ》は、佐藤さんが、初めて挑んだ楽曲を含んだ映像作品。

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© Masaharu Sato / BIND DRIVE

自分のメッセージが伝わらなくなるのではという懸念から、アニメーションに楽曲を載せた映像作品には、これまで取り組まなかったという佐藤さんが、今回の制作にあたり最初に行ったのは、楽曲選び。そして、選曲されたのが、夫婦演歌「絆」(歌・長山洋子・影山時則)でした。

--作品では、その「絆」がカーステレオから流れてきます。

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ドイツ文化センターでの展示風景:会場であるホールの倉庫を使用して上映。 © Masaharu Sato / BIND DRIVE

使用されている演歌「絆」を選んだ理由を教えてください。

J-POPやテクノ、現代音楽といろいろ楽曲を探しましたが、カッコよすぎて、いかにもありがちなPVになってしまうようで、インスピレーションが湧きませんでした。演歌をyoutubeで検索してみて、アニメーションと組み合わせたら面白くなるのではないかと思いました。もともと、PVを作る際のアイディアとして「悪魔と天使」というキーワードのようなものがありました。「絆」は夫婦演歌なので、悪魔と天使を夫婦という関係、恋愛関係があるという風に見立てると、矛盾した関係だけど、愛し合ってしまい、これからどうするんだろうというイメージに繋がるようで面白いと思いました。また、曲のタイトルである「絆」という言葉は、「繋がり」という意味だけでなく、「束縛」とも捉えることが出来ます。その点も、矛盾をはらんでいて面白いと思いました。

--画面は切り替わり、うらぶれた田舎の風景が出されます。

BIND DRIVE

© Masaharu Sato / BIND DRIVE

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© Masaharu Sato / BIND DRIVE

この風景に関して教えてください。

登場するのは、茨城県取手市の僕が住んでいる身の周りの風景です。自分のスタイルとして、等身大の自分が置かれている環境を取り入れて、作品化することにしているので、ドイツに10年間住んでいたときは、ドイツでの風景を作品に取りこんでいました。2010年に帰国して、周 りの環境を見つめ始めると、取手は田舎で人も少ないのですが、でもそこに美しさを感じるようになりました。そして、演歌に凄く合うなと思いました。また、田舎の風景を一枚一枚重ねてゆくことで、映像作品を見ているのに、次第にスクリーンの中で一枚の絵画を見ているような印象に落とし込めないかなという思いがありました。そういう思いと天使と悪魔の発想をミックスさせて創ったのがこの作品です。

演歌の音に重ねて、聞こえてくるのは降り続く雨の音です。なぜ雨が降っているのでしょうか。

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© Masaharu Sato / BIND DRIVE

理由は二つあります。一つ目に、雨の動きがないとアニメーションではなく、静止画に見えてしまうことが挙げられます。画面を描きこんでいる結果、見ばえが非常に写真に近くなっていて、平面的になってしまいます。雨の線やしぶきの表現には、空間に距離感を生み出すような効果があるのではと思い、使いました。二つ目の理由には、この展覧会の一つのテーマになっている震災が関係しています。自分も震災や余震を経験し、原発事故の影響を受けています。震災後、雨が 降っていると放射能の影響で、家から出るのを怖く感じるようになりましたよね。震災のことを作品の中で表現したいという思いから、捉えられ方が変わってしまった雨を取りこみました。風景の中には、震災前と震災後が混ざっていて、震災で壊れてしまったものなどを取り入れています。但し、直接的に被害を伝えるような報道的な写真は絶対に入れたくないと思いました。アート作品は、10年後、100年後、200年後の人々に伝えていかなければならない媒体だと思っています。ただこういうことがあったということを直接的に伝えるではなく、震災によってある一人のアーティストが、感じていることを、報道とは異なる媒体で表現していることで、作品に接した人に伝えられることが、もっと広がるだろうと思いました。

この展覧会:《バインド・ドライブ》は、ドイツ文化センターで開催された「団・DANS」による8 回目となる展覧会〈Hierher Dorthin -ここから、あちらから-〉で発表された。「団・DANS」は、2005年に活動を始めた若手アーティストの集団で、若手のアーティストの作品を、現代美術にあまり馴染みない方々にも紹介したいという趣旨ではじまり、特徴として作家自らが会場にいて、作品の紹介を来場者に行う。今回は、日独交流150周年に際し、「団・DANS」とドイツ大使館、東京ドイツ文化センターの共同プロジェクトで開催。震災がテーマとなっている。

震災の話が出てきましたが、震災の前からこの作品の制作は始まっていましたか?

はい。制作は始まっていました。その制作中に、震災前になりますが、癌になってしまいました。すぐに手術をしたのですが、こんな大病をわずらったのは初めてだったので、人はいつか死ぬんだというのをリアルに感じました。その後、退院して、すぐに震災がありました。震災では、多くの人々の命が、自然の力によって亡くなっていくのを見ていました。自分個人の死を意識し、全体としての死というものを目の当たりにして、そういうものも作品の中で表現を出来ないかと考えました。ですが、ただ悲しいだけの表現では、なんだかやりきれない気持ちになってしまうので、日本の田舎に悪魔と天使がいるというすこし滑稽なエッセンスを取り込みました。本当に悪魔のようにしたかったら、特殊メイクなどして強調できますが、作品では、翼と角でのみ表現していて、コスプレしているというか、重い印象にならない感じで描いています。キッチュな感じのほうが、逆に救いがあるんじゃないかなと思って。

© Masaharu Sato / BIND DRIVE

© Masaharu Sato / BIND DRIVE

--その天使と悪魔は止まった車に閉じ込められています。そして、車のガソリンメータはもう底をつきそうで、ひたすら続く田舎道を彼らはどこにも行けそうにありません。

この作品にストーリーはありますか?

いわゆる商業アニメーションには、メッセージやコンセプト、テーマがあり、それに対していろいろな要素を加味して、見る人がそこにたどり着くように作 られています。ですが、アート作品は、アーティスト個人から色々な人に向けて発信するものなので、商業アニメーションのように一つの方向性に縛られるように制作してしまうと 広がりがなく、非常に狭いものになってしまうと思っています。そのため、作品の中では、色々な解釈出来るように、理屈では判断できないような感じを意識して編集しています。 その方が、見る人も面白いし、感じてく れるのではないかと思っています。

これまで発表されている平面作品では、人物もまるで写真のように描きこまれていますが、今回の作品では、人物はアニメーション的な表現をされていますね?

平面作品の人物描写のようにリアルに一枚一枚書いていったら、一生かかっても今回のようなアニメーション作品は完成出来ないと思います。商業アニメーションってフラットな表現をしているじゃないですか。作業ペースを上げるために、仕方なくフラットな表現になったと思うんですけど、それがだんだんと確立してアニメーション表現としての文化になりました。日本人はアニ メーションを見て育っているので、フラットな世界に 空間を感じられる目を持っていると思います。鍛えられていますよね。それはもしかしたら、浮世絵とか日本の伝統絵画の中で培ってきた目だと思います。そういう意味で、僕がリアルな表現にしない方向でも、いいのかなと思っています。今は日本人でなくても、世界の人の目が、フラットな表現から空間を感じられるように養われてきていると思います。

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© Masaharu Sato / BIND DRIVE

作品はループしています。始まりと終わりを作らない理由はありますか?

この作品は、映像作品ですが、絵画のように存在することを想定しています。絵画は、展覧会の展示室などで、鑑賞者を待ってくれています。でも、映画の場合は、開演時間に合わせて観客が席に座り、幕が開き、映像が始まります。いわば、観客が凄く受身な状況で作品鑑賞が始まることになります。映画や映像作品で起承転結のあるものは、鑑賞時間や環境に制約が発生します。でも絵画は、空間においてあれば、いつでも鑑賞可能で、そのタイミングは観客任せなので、対象として自立している存在だと思います。 だからこそ、絵画はこれだけ長い歴史を生き抜いてきているのではないでしょうか。そういった意味で、映像というものを絵画のように提示すると方法として、 ループを選んでいます。ループで成立する映像を作ることを前提に、いろいろなテーマを絡めながら創作しています。

--絵画にまつわるコメントが何度か登場しました。それもそのはずで、佐藤さんは、美術大学で油画学科に入学しています。ですが、在学中は一切描かずインスタレーション作品やコンセプチュアルな作品に 取り組み、卒業後渡ったドイツで、まだドイツ語がままならない中、描くことをコミュニケーションツールとしたきっかけから、再度絵を描き始めることになったそうです。しかし、ただ絵画を描くだけではつまらないと感じ、木炭で描いたドローイングをコマドリして動画にすることを始めます。そして、現在の作風に繋がります。

佐藤雅晴

佐藤雅晴さん

描くことはコミュニケーションのためのきっかけだったと思いますが、なぜ、インスタレーション作品などの制作に戻らなかったのでしょうか?

アニメーションは、やったことなかった領域だったんです。そして、凄く労力はかかるのに、見るのは一瞬で終わってしまいます。数百枚のコマを描いても数秒の映像にしかならないというそのギャップが、たまらないですね。そして、いつも作品が完成に近づくと、また次を創りたくなってしまう。きりないんですよ。これで満足したというのは一回もありません。

作品を見ていると不可解な違和感や、どことなく不安や怖さを感じます。なぜ、そういった雰囲気を感じさせてしまう理由はあると思いますか?

子供のころからホラー映画が好きでした。多分それが理由ですね。目に見えない存在とか、動ごくはずのないものに、生きていることを実感してしまったりとか。デビット・リンチ監督作品とかは好きです。単純にハッピーエンドとか、コメディーとか、恋愛とか、そういうのは見れないというか飽きちゃうという か・・・。自分で想像を膨らませることが出来る映画とか本とかを楽しいと思っていて、そういった影響が作品の中に出てきていると思います。

作品に関する今後の予定は?

アニメーションのアイディアは出てきて制作できるのですが、ここ1年間平面作品が 描けていません。ドイツにいた時は、ドイツ人のモデルを対象として距離をおいて捉えられたのですが、日本人だと距離が近すぎて作品にしにくいです。また、 背景に関しても一枚で成立する背景を見つけられない。平面をかけていないので、それが来年の課題です。平面作品とアニメーション作品の両方をバランスよく 取り組みたいと思います。

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《バ インド・ドライブ》には、佐藤さんのこれまでの興味や関心、そして実際の日常風景やご自身の病気や震災など、自身の経験が織り込んでいることがわかりました。それは、作品にとって強い要素ではありながら、鑑賞者に難解な思考や重い感情を強要するのではく、作品全体からはむしろユーモアを感じることが出来るように思いました。その原因の一つは、こっそりと意識され埋め込まれている、対照的な存在や生じる矛盾、物事を並べた時の「ギャップ」のように思います。ちりばめられた「ギャップ」が倍々ゲームのように、見る人の想像力をかきたてるように思いました。

時間を要した一コマ一コマを繋ぎ合わせ、一年もの制作期間を要した《バインド・ドライブ》を、鑑賞者は1ループ、4分50秒で見終えることが出来ます。しかし、すぐには立ち去れないでしょう。「なぜ?」と思っている間に、いつしか作品は繰り返されているのです。

今回《バインド・ドライブ》の動画は、このサイト上で紹介出来ませんが、11月26日より開催される佐藤さんの個展「取手エレジー Toride Elegy」で、是非、《バインド・ドライブ》を体験してください。

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佐藤雅晴個展

開催会場:イムラアートギャラリー(東京・神楽坂)

「取手エレジー Toride Elegy」
開催会期: 2011年11月26日 (土) – 12月22 (木)

「ココちゃん Little girl Coco」
開催会期:  2012年1月7日 (土) – 1月28日 (土)

公式サイト:http://www.imuraart.com/ja_ex1111_Masaharu_Sato_exhibition.html

佐藤雅晴(さとう・まさはる)

1973年大分県生まれ。主な個展:2010年「バイバイカモン」イムラアートギャラリー、2009年「ピンクのサイ」GalleryJin Projects、2009年「signs」GALERIE VOSS、海外のグループ展に多数出展。公式サイト:http://www.masaharusato.com/