[レビュー] アルスエレクトロニカ・レポート 3 受賞式典「GALA」
September 26th, 2011 Published in レビュー&コラム | 7 Comments
コンテスト部門 Prix Ars Electronicaについて
アルスエレクトロニカのコンテスト部門Prix Ars Electronica(プリ・アルスエレクトロニカ)では、毎年世界中から集まった応募作品の中から特に優秀な作品に対して贈賞する仕組みをとっています。1987年に始まったPrix Ars Electronicaは今年で25年目を迎え、アルスエレクトロニカ32年の歴史の中でも中心的な役割を担っています。今年は世界74カ国から応募された3,611作品の中から、Golden Nicaをはじめとする各賞が選ばれました。
合計35名の審査委員による審査を経て、Golden Nica(大賞)6作品、Award of Distinction(優秀賞)12作品、[the next idea] voestalpine Art and Technology Grant(ネクスト・アイデア賞*)1作品、Honorary Mention(佳作賞)74作品が決定され、受賞者には総額117,500ユーロ(約1,300万円)の賞金が贈られました。
[*ネクスト・アイデア賞:120年の歴史を持つオーストリア最大の鉄鋼メーカーであるフェストアルピーネ社の助成により、アートとテクノロジーに関する次世代のアイデアに贈られる賞]
受賞式典 Ars Electronica Galaでのセレモニー
会期中9月2日(金)夕刻から、アルスエレクトロニカの受賞式典Ars Electronica Gala(通称 ガラ)が開かれ、そのメイン行事として受賞セレモニーが行なわれました。昨年の会場はリンツ市内の旧タバコ工場でしたが、今年は例年通りドナウ川沿いのブルックナーハウスでの開催です。
Trailer Ars Electronica Festival 2011 – ORIGIN –
今年のテーマであるOriginのトレイラー映像でガラはスタートしました。アルスエレクトロニカのディレクターであるゲルフリート・シュトッカーとクリスティーナ・ショップ両氏がステージに現れ、開会の辞と協賛・協力者に対する感謝の言葉を述べます。ステージ上の巨大スクリーンに映し出された協力・協賛各社のロゴの多さを見ても、このフェスティバルがリンツ市の行政、一般企業、文化施設、メディアなど、あらゆる分野からの協力を得ながら開かれていることが分かります。
Golden Nica受賞者と受賞作品の紹介
リンツ市副市長ら関係者からの挨拶が行なわれた後に、再びゲルフリート氏の登壇によってセレモニーは進行します。セレモニーは2つのパートに分かれています。最初のパートはGolden Nica受賞者・受賞作品の紹介です。作品の紹介映像が流れ終わると同時に、ゲルフリート氏が会場席に座っている受賞者をステージ上に招き入れ、制作にまつわる質問や受賞への感想を伺います。そして紹介が終わると受賞者は再び元の席に戻り、次の部門の受賞者が入れ替わりステージに上がっていきます。この段階ではまだGolden Nicaのトロフィー授与は行なわれません。
若手日本人アーティストによる受賞セレモニー・パフォーマンス
各部門の受賞者・受賞作品の紹介が終わると、招聘アーティストによるパフォーマンスが繰り広げられます。今年のパフォーマンスは、高橋征資の《音手(おんず)》と和田永率いる《Open Reel Ensemble》でした。
《音手(おんず)》は拍手を模倣した多目的機械装置です。場内に流れる「幸せなら手を叩こ」の歌声に合わせてこのアナログ的な装置が手を叩くと、観客もともに歌いながら手を叩き、会場は楽しく和やかな雰囲気に包まれました。
続いて和田永率いる《Open Reel Ensemble》は、4台のオープンリールとピアニカ、拡声器などを用いて、オープンリールでの録音/再生を繰り返しながらパフォーマンスを展開。ここではメンバーからの2名構成によって、受賞者への祝福曲が演奏されました。(9月4日夜には《Open Reel Ensemble》のコンサートが同会場で行なわれましたが、その様子はまた別途紹介する予定です。)
黄金色に輝くトロフィーの授与
そして、セレモニーのハイライトであるGolden Nica賞のトロフィー授与が行なわれました。ゲルフリート氏のホストのもと、各部門のGolden Nica受賞者と、副市長などの贈賞者がそれぞれステージに上がり、黄金色に輝くニケ像のトロフィーが授与されました。《Newstweek》でInteractive Art部門のGolden Nica賞を受賞したJilian OliverとDanja Vasilievは、昨年のHybrid Art部門でもAward of Distinctionを受賞したアーティストです。彼ら二人にはMITメディアラボの第4代所長である伊藤穣一氏からトロフィーが授与されました。
Prix Ars Electronicaに創設された新しい賞「Collide@CERN」
アルスエレクトロニカは今年からCERN(欧州原子核研究機構)とともにコラボレーションを開始しました。CERNはスイスのジュネーヴ郊外、フランスとの国境地帯にある世界最大規模の素粒子物理学の研究所で、地下には 全周 27km にもおよぶ円形の大型ハドロン衝突型加速器「LHC (Large Hadron Collider)」が、国境を横断して設置されています。
ゲルフリート氏は、アートと科学テクノロジーに関するCERNとのコラボレーションの一環として、Prix Ars Electronicaに新しい賞「Collide@CERN」を創設したことを発表しました。この賞は、デジタルアートと科学領域を横断するプロジェクトに与えられるアーティスト・イン・レジデンス賞で、CERNで2ヶ月、アルスエレクトロニカ・センターのFuture Labで1ヶ月という、合計3ヶ月にわたるレジデンスと、賞金1万ユーロが贈られます。受賞者はレジデンス期間中に各機関のスタッフとともに様々なプロジェクトを展開させます。この賞への募集はすでに開始されており、締切が10月31日までとなっています。詳しくは募集要項と応募フォームをご確認ください。
CERNの巨大加速器「LHC」の内景とウィーン・フィルの演奏
このコラボレーションを記念して、CERNの大型ハドロン衝突型加速器「LHC 」のための楽曲《beautyful music for a beautyful beast》がRalph Schuttiによって作曲され、LHC内部の情景や宇宙の起源をモチーフとしたイメージ映像に合わせて、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によって演奏されました。
式典終了後の受賞者インタビュー
式典が終了して来場者が退席しはじめると、現地テレビ局をはじめとする各種メディアが、ステージ上に残っている受賞者のもとへ駆け寄って、インタビューが始まります。通常、日本のセレモニーでは受賞者の降壇後に閉会の辞が述べられて閉会することが多いですが、ここが大きく異なる点だと言えるでしょう。ホールを出た来場者には、ホワイエに準備されたビュッフェ形式のディナーパーティが待っています。ここでの会食は、フェスティバルの受賞者、関係者、来場者が交流を図ることのできる貴重な機会です。2003年にHonor of Life AchievementのGolden Nicaを受賞したIAMAS名誉学長の坂根厳夫氏も5年ぶりにこのフェスティバルを訪れ、ガラをご覧になった後に国内外の旧友と親交を温められていました。(坂根厳夫氏が巡るアルスエレクトロニカについては、また改めてご紹介する予定です。)
Prix Ars Electronica 2011
Golden Nica 受賞作品・受賞者[他の受賞作品・受賞者一覧はこちら]
・Computer Animation / Film /VFX部門
《Metachaos》
Alessandro Bavari (イタリア)
・Digital Musics & Sound Art部門
《Energy Field》
Jana Winderen (ノルウェー)
・Hybrid Art部門
《May the Horse Live in Me》
Art Orienté Objet: Marion Laval-Jeantet (フランス), Benoît Mangin (フランス)
・Interactive Art部門
《Newstweek》
Julian Oliver (ニュージーランド), Danja Vasiliev (ロシア)
・Digital Communities部門
Fundación Ciudadano Inteligente
・u19 – freestyle computing部門
《Weltherberge Schulhaus》
HBLA fur kunstlerische Gestaltung Linz / HTL Leonding
ネクスト・アイデア賞 [the next idea] voestalpine Art and Technology Grant
《Choke Point Project》
P2P Foundation (オランダ)
今年のPrix Ars Electronicaの受賞を祝う大舞台でパフォーマンスを行なった高橋氏と和田氏は、いずれも学生CGコンテスト[主催CG-ARTS協会]の歴代受賞者です(高橋氏は第16回インタラクティブ部門エンターテインメント賞、和田氏は第14回インタラクティブ部門優秀賞)。今後も、こうした日本の若手アーティストが世界で活躍する機会を紹介し、応援し続けていきたいと思います。また、このレビューでは引き続きアルスエレクトロニカのレポートをお届けします。次回はアルスエレクトロニカの受賞作品展「サイバーアーツ2011」をご紹介します。そちらもぜひお楽しみください。
《アルスエレクトロニカ・レポート》
1.今年のテーマ「origin-how it all begins」
2.オープニング(8月31日)とアルスエレクトロニカ・センター
5.サイバーアーツ展
6. ふたつのキャンパス展
8.まとめ