[レビュー] アルスエレクトロニカ・レポート 6 ふたつのキャンパス展
September 30th, 2011 Published in レビュー&コラム | 5 Comments
今年のキャンパス展には日本から筑波大学が出展
今年のアルスエレクトロニカで数多くの日本人アーティストが活躍している様子は、これまでのレポートでもご紹介してきましたが、その活躍の一翼を担ったのが今年の「キャンパス展」です。フェスティバルのイベントの一つとして2001年からはじまったキャンパス展は、アートとテクノロジーの統合をはかるメディアアート教育をおこなっている学校の研究活動や作品を紹介する展覧会です。
今年2011年は、筑波大学によるキャンパス展“Seriously Playful / Playfully Serious – University of Tsukuba”が開かれ、ハウプトプラッツ広場に面したリンツ工科大学を会場として、筑波大学の教員、在校生、卒業生による作品展示、プレゼンテーション、パフォーマンスなどが行われました。
日本からのキャンパス展参加は、2004年のIAMAS(情報科学芸術大学院大学)による”IAMAS :Progressive Media Art Education from Japan”と、2008年の東京大学による”Hybrid Ego – The University of Tokyo”に続き、今回で3度目になります。
アルスエレクトロニカと筑波大学との繋がりは深く、卒業生の岩井俊雄が1997年に《Music Plays Images X Images Play Music》で坂本龍一とともにInteractive Art部門のゴールデン・ニカを受賞し、今回のキャンパス展の実行委員長でもある岩田洋夫教授は1996年と2001年にInteractive Art部門のHonorary Mentionを受賞し、明和電機、クワクボリョウタの作品が招聘を受けてセンターで年間展示されるなど、数多くのアーティストがアルスエレクトロニカで活躍しています。また、東京都現代美術館キュレーターの森山朋絵氏がInteractive Art部門で審査委員を務めていることも特筆すべきでしょう。
タイトルの「プレイフル」と「シリアス」
筑波大学のキャンパス展のタイトル“Seriously Playful / Playfully Serious”で用いられている”playful(遊び心に満ちた)”と”serious(真面目な/深刻な)”という言葉は、筑波大学のアートとテクノロジーに関する活動にとって重要なキーワードです。芸術専門学群のアーティストやクリエイターは、プレイフルな要素をシリアスに扱い、その一方で工学系のシリアスなプロジェクトは、往々にしてプレイフルな様相を見せることがあります。今回のタイトルは、筑波大学を母胎に生み出された優秀な作品に見られるこれら2つの特徴をコンセプトにして名付けられています。
4つのセクションによる展示構成
展示は4つのセクションで構成されており、筑波大学のテクノロジー、サイエンス、アート、デザインなどの幅広い創造的な活動領域の広がりを表わす合計23作品が展示されています(展示作品一覧はこちら)。
1.ヒストリー
エントランスを入るとまず目に飛び込んでくるのが、明和電機の制服を着たマネキンと《オタマトーン》、そしてクワクボリョウタの《PLX》です。そしてエントランス横にはアルスエレクトロニカと筑波大学の関係史をビデオや画像とともにたどることができるクロニクルが展示されています。
2.工学領域のアーティスティックなアプローチ
2つめはシステム情報工学研究科のプロジェクトのセクション。ここでは、アート作品としての様相を呈しつつ、遊び心あるプレイフルな体験ができる研究成果が展示されています。
3.芸術専門学群による近年の作品
芸術専門学群に在籍する学生や教員による、映像、インスタレーション、インタラクティブ作品などが展示されています。
4.デザインと工学のコラボレーション
情報デザインとロボット工学という2つの領域が融合された作品の展示。それぞれの領域の学生がともに制作したインタラクティブな作品を体験することができます。
キャンパス展のフォーラム
また、9月4日には、キャンパス展のフォーラム“Campus Tsukuba Forum”がアルスエレクトロニカ・センターのセミナールームで開催されました。岩田洋夫教授、逢坂卓郎教授、森山朋絵氏が、それぞれ筑波大学の歴史やアルスエレクトロニカでの活動、研究や作品の紹介などを行い、トリを務めた明和電機社長・土佐信道氏のプレゼンテーション(プロモーション)では、オタマトーンで筑波大学校歌の演奏パフォーマンスが披露され、会場を沸かせていました。オタマトーンのパフォーマンスは9月2日と3日にも展示会場内で行なわれましたが、いずれもエントランスから人が溢れるほどの盛況ぶりを見せていました。
キャンパス展2011
タイトル:“Seriously Playful / Playfully Serious – University of Tsukuba”
開催期間:2011年9月1日(木)〜9月6日(火)
開催場所:Kunstunversität Linz
主 催:筑波大学アルスエレクトロニカ2011キャンパス展実行委員会
公式HP:www.art.tsukuba.ac.jp/campus2011/index-j.html
もう一つのキャンパス展
本レポートのタイトルに「ふたつの」とあるのは、正式プログラムとしてのキャンパス展ではないものの、もう一つ別のキャンパス展が開催されていたからです。それは、リンツ工科大学メディア学科Interface Culturesプログラムの大学院生による展覧会“UNUSELESSNESS – THE USEFUL USELESS”(和訳すると「無用ではないもの:有益な無駄」となるでしょうか)です。ブルックナーハウス1Fのホワイエを会場に、アートと有用性をテーマとした学生の作品12点が展示されました。
David Brunnthalerの《Oma, erzähl mal!》(右写真。座っているのは作者)では、作者の祖母(左写真)が大切に集めている様々な石が、テーブル上の計量器の周りに置かれています。鑑賞者が椅子に座り計量器に石を置くと、反対側に置かれた古いラジオから、彼の祖母がその石にまつわる思い出を語り始めます。この作品は、祖母の思い出をできるかぎり保存することを目的としていて、まさに石が彼女の思い出を保存する容れ物となっているような作品です。身近な存在である祖母をモチーフに、人の人生の中で語られず聞かれることもない膨大な物語を紡ぎだそうとしています。作品名の《Oma, erzähl mal!》は、”Tell me a story, grandma(おばあちゃん、何かお話して)”の意。
実はこの展覧会の裏企画として、会期中この展示を訪れた関係者に優秀作品を選んでもらい、独自の「ゴールデン・ニカ」を決定するという試みがなされていました。ちなみに、彼ら独自のゴールデン・ニカに輝いたのは、Andrea Suterの《Sight Clearing》。会場一番奥の白い壁面に取り付けられた1本のワイパーが、雨天時に戸外の雨を感知して、室内の壁を拭き取る動作を行ないます。通常、屋外にあって外側のガラス面をクリアにして内からの視界を良くするために機能しますが、この室内に据え付けられたワイパーは、動くごとにその痕跡を残してゆくという作品です。
そして9月4日の夕方に、独自のゴールデン・ニカを讃える「ガラ」が展示スペースで行なわれ、メディア・アーティストでもあるローラン・ミニョー教授とクリスタ・ソムラー教授、ビョークが使用したことでも知られるテーブル型電子楽器《reactable》の作者でもあるマーティン・カルテンブルナー准教授らとともに、坂根厳夫氏も飛び入り参加し、ささやかなパーティが開かれました。
Interface Culturesプログラムの学生による展覧会
タイトル:“UNUSELESSNESS – THE USEFUL USELESS”
開催期間:2011年9月1日(木)〜9月6日(火)
開催場所:ブルックナーハウス
これから活躍することが期待される若手アーティストや学生に、作品の展示機会やワークショップのための場を提供する取り組みは、彼らにとっても大きな励みになることでしょう。レビューでは引き続きアルスエレクトロニカのレポートをお送りします。どうぞお楽しみに。
《アルスエレクトロニカ・レポート》
1.今年のテーマ「origin-how it all begins」
2.オープニング(8月31日)とアルスエレクトロニカ・センター
5.サイバーアーツ展
6. ふたつのキャンパス展
8.まとめ