[レビュー] アルスエレクトロニカ・レポート 5 サイバーアーツ展
September 29th, 2011 Published in レビュー&コラム | 1 Comment
フェスティバル期間中見逃せないのが、サイバーアーツ展です。サイバーアーツ展とは、フェスティバルのコンテスト部門であるPrix Ars Electronica(プリ・アルスエレクトロニカ*)で選出された作品やプロジェクトによる受賞作品展で、今年は9月1日から7日まで7日間開催されました。
会場には、アルスエレクトニカ・センターから徒歩15分程の街中にあるOKセンターが使用されます。OKセンターは、正式には OK Offenes Kulturhaus OÖ(現代美術センター)という名称で、コンテンポラリーアートの中でも特にインスタレーション作品とメディアアートを中心に紹介する州立の施設です。
*Prix Ars Electronica(プリ・アルスエレクトロニカ)の詳細については、授賞式典Galaのレポート冒頭でご紹介しました。
今回のサイバーアーツ展は、OKセンターを飛び出し、隣接するショッピングモールの駐車場にまで展示スペースを拡張して作品を紹介していました。順路が非常に入り組んでいる上に、HÖHENRAUSCH.2という水をテーマにしたOKセンターの企画展覧会も同時開催されているため、来場者は、順路が混乱しないように、床に張られたテープをたどってスペースを回ることになりました。
このレポートでは、いくつかの作品を写真とともにご紹介します。
Interactive Art 部門でHonorary Mentionに選ばれたRejane Cantoni, Leonardo Crescenti による《TUNNEL》。来場者が金属でできた作品の中に入り、そこでの動き方、歩き方によって、構造物が自在に動く体感型の作品。
一杯に人の顔写真が埋めつくされていたパネルが展示されていたのが、Interactive Art 部門でAward of Distinction に選ばれたPaola Cirio, Alessandro Ludovicoによる《Face to Facebook – Hacking Monopoly Trilogy》 。Facebook上に公開された無数の顔写真をカテゴリー別に分類し、公開するというプロジェクトです。これは、誰もが自由に参加し、個人情報を公開しているネットワーク上のシステムはいつでもハッキングされる可能性があることを警告するコンセプトが込められています。
館内のワンフロアー全面に水を張った驚きのインスタレーションを展開したのが、HeHe, Helen Evans, Heiko Hansen による《Is there a horizon in the deep water?》。
2010年4月に起こったメキシコの石油掘削施設「ディープウォーター・ホライズン」の爆発を取材した作品で、実際のプールに同施設の小型模型を作り、石油流出が環境にどのような影響を及ぼすかをシュミレーションし、問題提起します。しかしながら、写真のように、OKセンターでの展示は白く美しく、来場者はこぞって水の中を歩いて いました。
屋外へと抜ける踊り場には、今回Interctive Art 部門でHonorary Mentionに輝いた安藤英由樹+渡邊淳司+佐藤雅彦による《empathetic heartbeat》の関連作品が紹介されていました。来場者はデバイスを通じて他人の鼓動を聴くことが出来ます。
サイバーアーツ展と同時開催の展覧会HÖHENRAUSCH.2は、屋上のスペースを中心に開催されていました。来場者は、建物の外に飛び出して、隣の建物にまでつながる木製の階段を上ったり下りたりしながら、下記地図の赤いラインを辿って作品を鑑賞します。
地図の中央下に、もやもやと煙が立ち込めていますが、ここでも日本人作家の作品に出会うことが出来ました。霧の彫刻で知られる中谷芙二子さんによる《Cloud Parking(雲の公園)》です。霧が立ち込める度に、歓声があがり、誰もが楽しそうに雲の中にいるような体験を楽しんでいました。
再び、サイバーアーツ展を見ていきます。会場は、美術館から駐車場に移動しています。
今年のInteractive Art 部門の大賞はJulian Oliver, Dana Vasilievによる 《newstweek》です。あなたが、インターネット上でチェックしているニュースは本当ですか?どこまで信用できますか?如何様にでも操作出来てしまう、現在のネットワークに警告を発するこのプロジェクトの展示スペースには、ビデオドキュメンテーションの上映とともに、情報操作を可能にするデバイスのサンプルが展示。そして、webニュースの情報を操作できる体験用のPCが設置されていました。
続いて、Hybrid Art 部門で大賞に選ばれた《May the Horse Live in Me》です。会場では下記の動画がドキュメンテーションとして上映されていました。馬の血液をパフォーマーに注射します。通常であれば、人間の体は拒否反応を起こすわけですが、長年に渡る研究成果が可能したパフォーマンスなので、パフォーマーに変化が起きることはありません。動物が人間の体の一部になります。Hybrid Art部門では、生物学や遺伝子学などの知識や情報を取り入れた、実験的な作品が選ばれる傾向にあるようです。
Hybrid Art部門でHonoray Mentionに選ばれたAgnes Meyer-Brandis 《Inside the Tropospheric Laboratory》は、空気中の雲を作る装置を展示。ドキュメンテーションでは、無重力状態で雲を生成する実験を続けるアーティストの姿が映し出されていました。
会場では、実際に全ての受賞作品が展示されている訳ではなく、ドキュメンテーション映像で紹介されている作品もありました。川村真司さんの《SOUR/MIRROR》がドキュメンテーションで紹介されていました。
展示作品の一覧はOK Offenes Kulturhaus OÖのwebサイトをご覧ください。
アニメーション作品は、OKセンター最上階の上映スペースで、アニメーションフェスティバルとして上映されています。プリ・アルスエレクトロニカに応募された作品の中から120作品が13のテーマに分かれて上映されました。
サイバーアーツ展で紹介される作品の多くが、これまでのコンセプトや表現を飛び出して創り出されています。ですので、作品を味わってみるのも、なかなか一筋縄にはいかないように感じられます。ですが、これからのアートや表現の在り方がどう変化していくかをを予想しながら見始めてみると、ぐっとこの展覧会が面白く、楽しいものになるのではないでしょうか。
《アルスエレクトロニカ・レポート》
1.今年のテーマ「origin-how it all begins」
2.オープニング(8月31日)とアルスエレクトロニカ・センター
5.サイバーアーツ展
6. ふたつのキャンパス展
8.まとめ